中国人民銀行の潘功勝総裁が記者会見で異例の発表
1月24日、中国人民銀行の潘功勝総裁は、記者会見で、2月5日に預金準備率を0.5%引き下げることを発表した。これにより1兆元(約20兆6000億円)に相当する資金が金融市場に供給されることになるという。資金供給を増やし、景気を下支えする。他に、農業部門や小規模企業向けの再貸し出しと再割引の金利を1月25日から引き下げることも明らかにした。
人民銀行と国家金融監督管理総局は、また、不動産開発企業が商業用不動産を担保に借り入れた銀行融資の資金を、他の融資の返済や債券の支払いに充てることを認めると共同で発表した。この措置は今年末まで続けるとのことである。
人民銀行の総裁記者会見で、預金準備率の引き下げ表明することは極めて異例である。金融政策は人民銀行の所管ではあるが、中国では国務院が金融政策の変更を示唆し、その後、人民銀行が発表するという段取りが通常である。このため、潘総裁の発表は、市場には大きなサプライズとなった。
また、人民銀行が2023年に実施した預金準備率の引き下げは2回で、いずれも0.25%幅での引き下げだった。0.5%の引き下げは、踏み込んだ幅であることは間違いない。
当局には危機感
1月22日には、李強首相が主宰した閣議で、景気回復の上昇傾向を確固たるものとし、資本市場の安定的で健全な発展を促進することと、市場の信認を支えるためにより強力で効果的な措置を講じるとの方針が示されたと、中国中央テレビが報じていた。
潘総裁もまた、米FRBによる利上げが一段落する見通しであるため、今年は人民銀行による金融緩和を通じた景気支援の余地は拡大すると述べた。通常は、緩和を匂わせることのない潘総裁だけに、こうしたコメントからは、中国経済の先行きを巡る懸念が強まっていることへの危機感すら感じさせる。
市場の反応は、本格的な政策発動待ち
市場の反応はまちまちで、春節(旧正月)の連休を前に、資金が逼迫することへの対応という見方や、相場急落の歯止めに向けて他に有効な手段がないことから、窮余の策として預金準備率の引き下げを先んじて発表したとのシニカルな見方も出ている。中国経済の下支え効果がどれほどに出てくるかは未知数である。
株式市場は、1月も下げ続けていたことから、このニュースをきっかけに買い戻しの流れとなった。香港株式市場では、中国本土銘柄が一斉に買われ、ハンセン中国企業株(H株)指数は前日比4%を超えて上昇した。香港株式市場は25日も2%近く上昇し、ハンセン指数は16,000の大台を回復した。中国本土株も買われ、CSI300指数は直近安値を付けた22日終値の3,218.90から、25日には3,342.92まで上昇した。
誰も予想もしなかったタイミングで、大幅な預金準備率の引き下げを断行した中国当局の姿勢は、市場のモメンタムの回復に一役買うだろう。しかし、不動産市場の回復が望めるかどうかは、構造的な問題であるし、中国国内の消費が伸びる見通しがないという危機感に対処する政策は見えていない。3月に予定される全人代で、政策を取りまとめる可能性は高まったが、期待を肩すかしし続けた2023年のようになるのかどうか?市場は、疑心暗鬼のまま、旧正月の休暇に入ることになるのだろう。