GDP成長率は2年ぶりの低水準
インドネシア経済の2023年第3四半期 GDP成長率は事前の予想を下回る成長にとどまった。11月6日に発表されたインドネシアの2023年第3四半期・国内総生産(GDP)は、前年同期比で4.94%増で5.00%を下回った。年率換算のGDP成長率が5%を割り込むのは2021年第3四半期以来、約2年ぶりである。前期比では1.6%増加したものの、実質GDPを需要項目別に見ると、輸出と政府消費の減少が成長率の伸び悩みに繋がった。輸出は今年9カ月間のうち6カ月で減少、中国や欧州などからの需要が後退しており、その影響を受けているものと見られる。
民間消費は前年同期比5.06%増(前期:同5.22%増)と低下した。費目別に見ると、輸送・通信(同7.61%増)とホテル・レストラン(同6.52%増)が堅調に拡大した一方、食料・飲料(同4.07%増)や住宅設備(同3.77%増)、保健・教育(同4.23%増)が伸び悩んだ。物価の高騰が消費意欲を削いだという側面もあるが、金利上昇により、借り入れコストが増加し、消費を抑制した可能性も高い。インドネシア経済は、安定した消費が景気を下支えするという構造であるが、消費の伸び悩みは、景気の先行きを悪化させるリスクがある。
また、政府消費も前年同期比3.76%減となった。好調だった第2四半期の同10.57%増から大幅に低下した。総固定資本形成は前年同期比5.77%増(前期:同4.63%増)と加速した。機械・設備投資(同1.01%減)が減少したものの、建設投資(同6.31%増)が加速した。
昨年並みの成長率達成は厳しいか?
インドネシアは2023年第2四半期には、民間消費と投資の拡大が実質GDP成長率を押上げ、前年同期比5.17%増だったことと比較しても、状況の変化がうかがわれる。インドネシア政府は昨年(年率+5.3%)並みのGDP成長率の達成を目指しているが、第3四半期までの累計でGDP成長率は+5.1%であり、政府目標を達成するハードルはやや高いことも事実である。
中期的には、東南アジア最大の経済大国となったインドネシアの優位性は揺るがないと考えている。人口規模も大きく、安定した消費力も経済を下支えするだろう。今後も、東南アジア経済のけん引役としての役割を果たすことが期待される。
ただ、短期的には不安定化の要因もある。ひとつは、2024年2月にはインドネシア大統領選挙が実施されることである。人口規模では世界最大の直接選挙であることに加え、与野党が仁義なき合従連衡をした上で勝負が決まるインドネシアの大統領選の行方やその後の政治動向は見通しづらい。大統領選挙は、資源ナショナリズムの動きや首都移転にも大きな影響を与え、経済運営も左右するため、その動向には注意を払っておくべきであろう。
もうひとつは、通貨インドネシアルピアが、2020年4月以来の安値を更新するなど、下落圧力にさらされていることは気がかりな材料である。米FRBがタカ派的な金融政策スタンスを続けていることに加えて、中東での地政学的なリスクの増大を受け、新興国通貨が値を下げているが、インドネシアルピアも、10月30日には1ドル=15,800ルピアまで下落した。10月19日にはインドネシア中央銀行が、予想外の0.25%幅の利上げに踏み切り、政策金利を4年ぶりの高水準となる6.00%に引き上げたが、ルピアの取引レンジは切り上がっていない。
内外需要の動向に加え、通貨動向、政治状況と変化しやすい要因を抱えるインドネシアの動向にも、注意を払っておきたい。