製造業・耐久消費財の勢い一服
インド政府が10月28日に発表した2026年9月の鉱工業生産指数(IIP)は、前年同月比6.7%上昇となった 。高水準な伸びを維持しているものの、8月改定値の7.8%上昇から減速し、市場の事前予想(7.3%上昇)も下回る結果となった 。製造業や電力部門の成長が減速したほか、鉱業のマイナス幅が拡大したことが下ブレの要因である 。
分野別に見ると、全体の約4分の3を占める製造業生産は前年同月比7.6%増を記録した 。依然として底堅さは見せるものの、8月改定値の8.6%増からはやや落ち着きを見せている 。また、堅調な内需を背景に二桁増を続けてきた発電量も11.2%増(8月は12.3%増)と、比較すれば伸びが鈍化した 。一方で、鉱業は4.6%減だった8月からさらに悪化し、6.2%減と落ち込みが顕著になっている 。
消費の動向を映す消費財生産では、二極化の動きに変化の兆しが見られる。自動車や携帯電話などの「耐久消費財」は前年同月比6%増となったが、8月改定値の10.5%増からは勢いが一服した 。一方で、これまで低迷が続いていた食品や洗面用品などの「非耐久消費財」は1.4%増となり、8月の1.1%減からプラス圏に浮上した 。企業の設備投資意欲を示す「資本財」は10.4%増と二桁増を維持したものの、8月改定値の15.9%増からは減速している 。
単月の指標には減速感が出たものの、中長期的な成長トレンドが途切れたわけではない。2026年度の上半期にあたる4〜9月の累計では、鉱工業生産は前年同期比6.8%増を記録している 。前年同期の伸び率(4.4%増)を大きく上回るペースを維持しており、足元の勢いは鈍化したものの、インド経済全体としては依然として堅調な拡大基調にある。
内需の底堅さとインフレ再燃の懸念が交錯
前述の通り、足元の鉱工業生産には、これまでの勢いに一服感が見られるものの、中期的なインド経済の見通しは、主要国の中でも堅調である。国際通貨基金(IMF)は、旺盛な国内需要や堅調なサービス業、デジタルインフラの拡大を背景に、インドの2026年および2027年のGDP成長率をともに7.0%と予測している。世界銀行やインド準備銀行も、2026-27年度の成長率見通しを7.1%へと上方修正しており、経済のファンダメンタルズの強さは際立っている。
ただし、順調な成長の裏では、いくつかのリスク要因も浮かんできている。最も警戒されているのが、地政学的リスクに伴うインフレの再燃である。中東地域における紛争の激化は原油や肥料などの価格高騰を招き、国内の購買力を押し下げる要因となっている。実際に、消費者物価指数(CPI)の上昇率はRBIが掲げる目標値(4%)を上回る状態が続いており、経済の過熱とコストプッシュ型インフレが同時に進行する懸念が生じている。
このインフレ圧力を抑制するため、金融政策は局面転換を迎えた。利下げによる景気刺激が期待されていた市場の予測とは裏腹に、RBIは先日、10月の金融政策委員会(MPC)で、政策金利であるレポレートを0.25%幅引き上げ、年5.50%とすることを決定した。2023年2月以来、約3年半ぶりの利上げを実施したのである。インド準備銀行は「カリブレイテッド・タイトニング(調整された金融引き締め)」へとスタンスを転換しており、年末に向けてさらなる追加利上げに踏み切る可能性は十分にある。
更なる金利上昇は企業の借り入れコストを増加させ、これまで経済を牽引してきた民間の設備投資や、自動車をはじめとする耐久消費財の需要にブレーキをかける恐れがある。現時点では、景気後退のシグナルこそないものの、この水準以上への金利上昇は、今後のインド経済の足かせとなるだろう。堅調な内需というエンジンを維持しつつ、世界的な供給ショックや金利上昇による下押し圧力とどう折り合いをつけていくか、その舵取りの真価が問われることになろう。