年次予算案が映す政治的苦境
8月14日、インドネシアのプラボウォ大統領は、2027年予算案を示し、年次予算演説を行った。歳出は4097兆ルピア、歳入は3426兆ルピアで、財政赤字は国内総生産(GDP)比2.4%にとどまり、法定上限の3%を大きく下回って、ここ数年で最も小さい赤字幅を目標とする予算案を提示した。財政規律を前面に出した『健全財政』を掲げることで、投資家の不安を抑え込む狙いがにじむ。
しかし、演説の行間から浮かび上がるのは、成長加速を約束しながら財源確保に苦しむ現政権の姿である。昨年の大統領就任以来、プラボウォ氏の財政運営は市場から厳しい視線を浴びてきた。燃料補助金の増額、ルピア安、資本流出、中央銀行の独立性や株式市場の透明性といった複数の懸念が重なり、政権の政策余地は狭まった。
政治的にも、プラボウォ氏は難しい局面にある。大型公約である子どもや妊婦向けの無償給食プログラムは、低所得者層からの期待を集めた一方で財政負担への疑念を強め、すでに予算が縮小された。今回の演説でも、大統領は一切、同プログラムに直接言及せず、支持回復の切り札だったはずの政策が、いまや政権の弱点にもなりかねないことを示している。
政権は2027年の成長率目標を6%に設定した。近年の実績比では、2012年以来で最も高い成長を目指す野心的な目標である。インフレ率は2.5%前後、為替レートは1ドル=17,500ルピア、10年債利回りは6.9%が想定水準であるという。プラボウォ氏は、食料・エネルギー自給、国内産業の育成、教育改善など8つの重点計画を掲げ、新たなコモディティー取引所の創設も打ち出した。
しかし、野心的な成長と財政規律を両立して達成することは容易なことではない。国際機関や民間エコノミストの成長見通しは政府目標を下回っており、歳入が期待通り伸びなければ赤字増大への懸念は再び強まるだろう。コモディティー価格の正常化が税収を圧迫する可能性もある。
大統領の不人気ぶりも、こうした予算論争を複雑にしている。生活費、雇用、補助金、社会支出への不満が広がれば、財政規律を重視する姿勢は「国民生活より市場を優先している」と受け止められかねない。一方で、支出拡大に傾けば、投資家は財政の持続性を疑う。プラボウォ政権は、支持率を意識したばらまきと、市場に示す慎重さの間で綱渡りを強いられている。
今回の予算案は、その意味で単なる数字の羅列ではない。歳出増を3.9%に抑え、歳入増を6.8%と見込む設計は、政権が「拡張的だが測定可能で、的を絞った予算」と説明するための骨格である。だが実際には、燃料補助金、社会政策、インフラ、産業政策を同時に進めながら赤字を抑えるという、極めて難度の高い政治課題を背負っている。
プラボウォ氏は演説で、各省庁や地方政府の非効率な調達にも警鐘を鳴らし、支出管理の徹底を訴えた。これは財政健全化への姿勢を示す一方、政権内部の統治能力が問われていることの裏返しでもある。改革を進めれば既得権益と衝突し、改革が遅れれば市場の信認を失う。大統領の求心力が低下すれば、予算執行そのものが政治的な火種になりかねない。
それでも政権は、2027年予算を通じて「成長」と「慎重さ」の両方を選ぶ姿勢を演出しようとしている。問題は、その二兎を追う戦略が国民と市場の双方にどこまで信じられるかだ。インドネシア経済が5%台の安定成長から一段高い軌道へ移るには、財源の裏付け、制度への信頼、そして政治的な持久力が欠かせない。
地震情報:フローレス島沖でM7.7の地震発生
政治と財政の不安が続くなか、インドネシア東部では自然災害への対応も急務となっている。8月15日未明、フローレス島沖でマグニチュード7.7の地震が発生し、最新報道では少なくとも50人の死亡が確認された。マグニチュード7クラス以上の大地震としては4月2日に発生したM7.4の地震に次ぐ今年2回目。
震源に近いナゲケオ県では地滑りや通信障害により救助隊の到達が遅れ、約2000人が避難した。津波警報は一時発令されたが、その後解除された。