ドイツ東部ザクセン・アンハルト州の州議会選挙で、反移民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大きく躍進した。選挙管理委員会の発表では、AfDは43.8%を得票して第1党となり、同州で政権を獲得する勢いである。この選挙結果は、単なる地方選の勝敗にとどまらない。移民政策への不満、景気停滞、既成政党への失望、ウクライナ支援や対ロシア政策を巡って、欧州全体では、右傾化が進行し、その流れを象徴する出来事として受け止められている。
AfDの勝利と政権入りの焦点
AfDの得票率は、2021年の前回選挙の20.8%から43.8%へと急伸した。一方、メルツ首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)は17.2%にとどまり、前回の37.1%から大きく後退した。AfDの筆頭候補ウルリッヒ・ジークムント氏は公共放送ARDで勝利を宣言し、各党に組閣への協力を呼び掛けた。同州では20年以上にわたりCDUの州首相が続いていたが、AfDが州レベルで政権を担えば、戦後ドイツで初となる。
同党は「再移民」政策を掲げ、「不法移民を最大限に追放する」と公約してきた。外交では親ロシア路線を取り、対ロシア経済制裁の廃止も要求している。ドイツや欧州の主要メディアは、AfDを極右政党と位置付けている。
同州人口は約200万人で、経済規模はドイツ国内総生産(GDP)の2%程度にとどまる。それでも、ナチスへの反省を戦後民主主義の出発点としてきたドイツで、極右が州政権に近づいた意味は大きい。英BBCは今回の結果を「AfDの歴史的勝利」と報じた。
今後の焦点は、州首相選出に向けた連立交渉に移る。主要政党はこれまで、AfDの政権入りを阻む「防火壁」路線を維持してきた。AfDは2024年にも東部テューリンゲン州議会選で第1党となったが、この時は、他の政党が団結して連立を組み、政権樹立には至らなかった。
背景には、メルツ政権への不信もあろう。昨年2月の総選挙ではCDU・CSUが首位となり、AfDは第2党に躍進した。メルツ氏は社会民主党(SPD)との大連立政権を発足させ、国境検問や不法移民対策を進めたが、AfDの伸長を止めることはできなかった。さらに、経済低迷も政治不信を強めている。自動車など主要産業では雇用削減の発表が相次ぎ、シリアやウクライナからの難民受け入れをめぐっては、有権者の間に「支援疲れ」も広がる。20日には北部メクレンブルク・フォアポンメルン州でも州議会選が予定されており、世論調査では同州でもAfDが支持率で首位に立っている。
「防火壁」路線が直面する限界
AfDの躍進は、既成政党に対する抗議票だけでは説明しきれない。高い投票率と得票の大幅増は、有権者が政治の主導権を既成政党から奪おうとする明確な意思表示だったとの見方を強めている。
主要政党はこれまで、AfDとの連立や協力を拒む「防火壁」を維持してきた。だが、AfDが最大勢力となったことで、排除を前提とする政治運営は一段と難しくなっている。小政党の議会入りや各党の連立交渉次第では、州政権の発足が長期化し、政権運営も複雑になる可能性がある。
不満の受け皿となった右派
今回の選挙では、移民問題に加え、景気低迷、生活不安、連邦政府への不信がAfD支持を押し上げた。AfDはこうした不満を「政治を変える」という訴えに結びつけ、地方の怒りを取り込んだ。メルツ政権にとって、今回の結果は大きな打撃となるだろう。企業支援や財政支出による景気回復策は十分な支持を得られず、首相自身の発信をめぐる不手際も重なって、政権への信頼は揺らいでいる。経済界からは、AfDの伸長が州のイメージや投資環境に悪影響を与えるとの懸念も出ている。
英仏でも進む移民政策を軸にした右派連携
右傾化の波はドイツに限らない。英国のポピュリスト政党「リフォームUK」と、フランスの「国民連合(RN)」は、小型ボートで英国に到着した亡命希望者をフランスへ送還する構想で覚書を交わした。両党が政権を獲得した場合の実施を想定したもので、移民抑制を軸に国境を越えた右派連携が進みつつある。
この合意には、フランスの中道・保守系候補から批判が相次いだ。英仏海峡を渡った移民をフランス側が引き受ける形になりかねないとの懸念があるためだ。RNが国内向けの強硬姿勢と国際的な党派連携の間で矛盾を抱えているとの指摘も出ている。それでもRNは批判を退け、リフォームUKとの協力を歓迎している。移民管理を国家主権の中核に位置づける主張は、英国、フランス、ドイツで形を変えながら支持を広げ、欧州政治の中心的争点になりつつある。
イタリアでは文化的アイデンティティーを前面に
イタリアでも、元陸軍将官ロベルト・バンナッチ氏が率いる右派勢力が支持を伸ばしている。同氏は欧州連合(EU)の政治統合を抑え、欧州の文化的アイデンティティーを守ることを優先すべきだと主張する。また、過剰な規制を緩和し、EUを「強制ではなく協力のための場」に戻すべきだと訴えている。
バンナッチ氏は、ドイツのAfDやフランスのRNの伸長を引き合いに出し、右派勢力が欧州の将来を担うとの見方を示している。同性パートナーシップ制度の廃止や、同化できない移民の国外退去などを掲げる姿勢は、メローニ政権の右側から支持を奪う動きとして注目される。
一方、マリオ・モンティ元首相は、こうした言説が国民の不満や怒りをあおる危険性を指摘している。右派勢力の台頭は、既存の制度や価値観を揺さぶるだけでなく、欧州の戦後秩序が築いてきた民主主義や法の支配にも問いを突きつけている。
「例外」から「主流」へ向かう欧州政治
欧州の右派・極右政党は決して一枚岩ではない。親ロシア色の濃淡やEUへの距離感、経済政策、社会政策では、国ごと政党ごとにばらつきがみられる。それでも、移民抑制を政治の中心課題に据え、既成エリートや既存政党への批判を強め、国家主権の回復を訴えることで、勢力を拡大している。ザクセン・アンハルト州でのAfD躍進は、右派勢力が「例外」ではなく、制度政治の中心へ入り込む段階に進んだことを示している。AfDが実際に政権を担うのか、それとも既成政党が連立や少数政権で封じ込めるのか。その攻防は今後、ドイツだけでなく欧州全体の政治地図を左右することになる。