ドル円は8月安値水準まで円高に振れた
9月3日の外国為替市場では、ドル円で激しいドル売りが続き、一時1ドル=155.39円まで下落した。その後も155円台半ばで推移しており、8月3日の日米協調為替介入後につけた直近安値の155.23円に迫る水準となった。
円高が加速した直接的なきっかけは、日本銀行が9月政策決定会合で、「利上げ」を実施するとの観測が強まったことにより、日米金利差が縮小すると受け止めた市場参加者が増えたことによる。これまで市場は、日銀が利上げには慎重であり、金融正常化も緩やかなペースにとどまるとみてきた。しかし最近では、日銀内から物価上昇の定着や賃金上昇を前提に、追加利上げを容認するタカ派的な発言が相次いでいる。市場では年内追加利上げの可能性を織り込む動きが強まり、日本の短中期金利にも上昇圧力がかかっている。
為替市場にとって重要なのは実際の利上げ実施以上に、日銀が円安を容認する姿勢から徐々に距離を置き始めているとの認識である。日本の政策金利が引き上げられれば、長年続いた「低金利の円を借りて高金利通貨を買う」という円キャリー取引の魅力は低下する。そのため投資家は従来ほど積極的に円売りポジションを構築しにくくなり、円高方向への圧力が生じやすくなる。
また、ウォラーFRB理事が、「ディスインフレ傾向が続けば金利据え置きを支持する」と述べたことで、米10年国債利回りは4.73%前後まで低下したことも材料視された。ただ、今回の円高は米金利低下だけで説明できるものではない。市場では、日銀が追加利上げを加速させるとの見方に加え、米国側からも過度な円安是正を求める圧力が強まるとの観測が広がっている。特に先月実施された日米協調介入は、市場参加者の相場観に変化をもたらした。
やはり日米協調の効果は否めず
これまで市場では、「日本だけが円安是正を試みている」との見方が支配的だった。しかし、米財務省も過度な円安進行を問題視しているとの認識が広がったことで、投機筋にとって円売りポジションを積み上げ続けるリスクが高まった。日米両当局が足並みをそろえて円安を牽制する可能性を意識せざるを得なくなったためである。
これまで積み上がっていた円売りポジションの巻き戻しが発生したとの側面もあるだろう。円安を見込んでポジションを構築していた投資家が損失回避を目的に一斉に円を買い戻したことで、いわゆるショートスクイーズの状態となり、円高の勢いを一段と強めた。
さらに、世界的な金融緩和観測の高まりも円高を後押ししている。米国では利下げ期待がくすぶり続けており、主要国でも金融引き締め局面の終盤入りが意識されている。こうした環境の変化は、高金利通貨を買い低金利通貨を売る従来の取引を見直す動きにつながりやすい。
今回の円高進行は、日米当局による円安牽制、日米金利差縮小への思惑、投機筋による円売りポジションの巻き戻し、そして米金利低下や世界的な利下げ観測という複数の要因が同時に作用した結果だろう。
潮目の変化が起こるか?見極めが大事
もっとも、ドル円相場の中長期的な方向性が完全に変化したと判断するのは時期尚早である。日米の金利差は依然として大きく、日本経済が急速で大幅な利上げに耐えられる状態でもない。従って、今回の円高局面が一段と進展するかどうかは、今後の米物価指標やFRB高官発言、さらに日米当局の為替政策スタンスに引き続き左右されることになろう。
筆者は、今回の円高局面の本質は単なる米金利低下ではなく、日銀の政策スタンスに対する市場の見方が変化し始めた点にあると考えている。これまでのドル円相場は「FRBが高金利を維持し、日銀は動けない」という前提の上に成り立っていた。しかし、その前提が徐々に崩れ始めているのであれば、ドル円のレンジそのものが切り下がる可能性も意識する必要があるだろう。