4月5日、米国労働省は3月の雇用統計を発表した。
非農業部門雇用者数は、前月比30.3万人増と、約1年ぶりの大幅増だった。前月は27万人増と速報値27.5万人増から下方修正された。家計調査に基づく失業率は前月の3.9%から3.8%に低下した。平均時給は前月比0.3%増で前月の同0.2%増から上昇した。前年同月比では4.1%増と前月の同4.3%増からは低下した。
労働参加率は昨年11月以降で初めて上昇に転じ、62.7%だった。25-54歳の年齢層では83.4%に低下したが、なお20年ぶりの高い水準である。労働参加率の上昇は、賃金圧力にはトレードオフの関係にあるため、インフレ圧力の評価にとってはポジティブである。事業所調査に基づく平均時給は前年同月比で4.1%増と、2021年半ば以来の低い伸びとなった。週労働時間は34.4時間と、前月の34.3時間からわずかに増えた。
3月の雇用統計は、雇用者数や労働参加率、平均週給などは全て事前の予想を上回った。減速を予想されていた雇用市場が、むしろ底堅さを増していることを示唆する内容だった。雇用市場が堅調であることは、賃金の上昇を通じて、消費者が支出を拡大し続けることを支える。雇用市場が緩和に向かっており、これがインフレ圧力の緩和にもつながるとのシナリオさえ用意していた市場にとっては、ややネガティブな内容と評価するべきだろう。
実際に、債券市場では、債券利回りの上昇で反応した。FRBはインフレ対策に、より忍耐強く取り組み、インフレ圧力の緩和を確認するまで、利下げの判断を留保する方向にバイアスを掛けることが予想される。つまり、利下げの開始は、より後ろ倒しされることとなるだろう。
株式市場にも波乱ありか
先週の米国株式市場はやや波乱に富んだ展開で、週足では今年1月以来の下げ幅を伴った下げとなった。S&P500指数は、前週末から1%下げて5,204.34で週末の取引を終えた。ダウ平均は、同2%下げて38,904.04、ナスダック総合指数は同0.7%下げて 16,248.52で引けた。
足元の米国経済の状況は、底堅く推移しており、先週発表された米国雇用統計でも、市場が想定する状況より、雇用市場は幻聴であることが確認された。企業業績にとっては、プラスに働くため、株価にも押し上げ要因ではある一方で、米FRBによる金融政策は、当面様子見となる可能性が強まり、高金利が長期化するリスクが高まったと受け止められた。
3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が30.3万人増で、約1年ぶりの高い伸びとなった。失業率は2月の3.9%から3.8%に小幅低下した。平均時給は事前予想に沿ったものだった。総じて、堅調な内容だったと言えるだろう。
雇用統計発表後は、短期市場が織り込む利下げの確率は、一段と低下し、6月FOMC時点では、25bpsの利下げを予想する確率は約50%程度まで下げた。7月FOMC時点でも100%を割り込んだ。利下げ開始が後ずれすることを市場は懸念し始めている。2024年内の利下げ幅の織り込み度合いも、計70bpsに縮小している。株価にとっては、個人消費が堅調であり、企業収益が良好であれば、ソフトランディングシナリオまたはゴルディロックスシナリオに乗り、上昇を継続するとの見方は根強い。株式市場は金利低下を楽観視しがちであるが、そのシナリオが崩れ、利下げの開始までに相当に時間を要する事態となれば、一定程度のリスクに晒されるのではないか。
米FRB高官のコメントでは、ローガン・ダラス連銀総裁が、利下げを検討するのは時期尚早だとコメントした。借り入れコストの上昇が、FRBが想定してきた程度には景気を抑制していない可能性を理由に挙げ、金利による抑制効果が想定外に小さい場合には、金利を下げにくいことを示唆した。ボウマンFRB理事も、インフレ圧力が継続し続け、むしろ上振れするリスクがあることへの警戒感に言及し、現時点で、利下げを検討するのは時期尚早であることを警告した。
緩和後ずれのシナリオも
パウエル議長は、雇用情勢が力強いというだけでは、金融政策を緩和方向に舵切ることを遅らせるには十分でないとの考えを示した。しかし、この数カ月のインフレ指標がインフレ圧力の継続を示唆していることから、今回の雇用統計は、金融政策の緩和開始タイミングが後ずれする可能性を高めると考えるべきだろう。