商業不動産関連融資への懸念が再浮上
金融システムの動揺再び?
2023年3月に起こったシリコンバレー銀行やファースト・リパブリック銀行など、地域金融機関の破綻から約1年が過ぎようとしている。しかし、金融市場が再び動揺するような事態が起こらないとも限らないことを先週改めて認識させられた。
先週1月31日、銀行持ち株会社ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)が、大幅な配当引き下げと貸し倒れ引当金の積み増しを発表した。それを受けて、NYCB株は、38%急落した。地銀株指数も昨年3月以来の大幅安となった。大手格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、NYCBの発表を受け、同行を投機的水準に格下げするかどうか見直しに着手すると発表した。
米国の商業用不動産市場は、パンデミック以来、オフィス需要の後退や金利の上昇などで不安定な動きが続いている。今回のNYCBの発表は、空室率の増加や金利の上昇を加味すると、金融機関が不動産ローン債権のデフォルト(債務不履行)見通しを見直す可能性があることに改めて警鐘をならすものとなった。
米国商業用不動産ローン市場では、2025年末までに約5,600億ドルもの返済期日が到来すると言われている。特にこうしたエクスポージャーが高いのが地域金融機関で、商業不動産関連融資以外に、クレジットカード・ポートフォリオや投資銀行事業を持たないことから、大手金融機関よりも事業ポートフォリオの集中度が大きいことが懸念される。
なお、米国商業不動産ローンには他の国の金融機関もシンジケートローンなどで参画しており、日本では、あおぞら銀行が、米国オフィス向けの不動産融資からの損失に備えるために、引当金を追加計上すると発表した。日本の保険会社の中にも、米国商業用不動産に対するエクスポージャーが懸念される保険株には売りは出た。
NYCBの発表の影響は、同様に商業用不動産ローンのエクスポージャーが大きい他の米地銀にも波及している。ニュージャージー州を本拠とするバレー・ナショナル・バンクコープの株価は、先週水・木曜日の2日間だけ約14%下落した。バレー・ナショナルは同業他社に比べて商業用不動産ローンへのエクスポージャー比率が高いことがわかっている。2023年12月31日時点では、計502億ドルの貸出債権のほぼ半分を商業用不動産が占め、ニューヨーク、フロリダ、ニュージャージー各州でのエクスポージャーが大きい。2023年第4四半期の決算発表資料では、商業用不動産ローンの内訳はオフィスビルが約10%、アパートと住宅が24%、小売りが17%を占めていた。商業用不動産へのエクスポージャーは、規制当局が特別な監視の目を向けるのに十分なほど高いとみられる。
先週末2月2日の株式市場では地銀株は反発し、NYCB株が前日比8.5%高、バレー・ナショナルが同4.5%をつけたが、一旦疑念の目を向け始めた市場参加者は、こうした地域金融機関への警戒を緩めないだろう。引き続き、十分な注意を払うべきであろう。