日本銀行は22日の金融政策決定会合で、現行のイールドカーブコントロール(YCC)や金融緩和政策を維持することを決定した。具体的には、政策金利はマイナス0.1%に据え置き、長期金利(10年物国債利回り)はゼロ%±0.50%の許容範囲内に誘導する現行の政策を維持する。フォワードガイダンスについては、「必要があれば、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」とのスタンスを変更しなかった。なお、今回の会合に参加した、審議委員全員が賛成したという。
注目された植田総裁会見
植田日銀総裁は会合後の記者会見で、2%としている物価目標が持続的・安定的に実現できるとの見通しが持てる状況になれば、YCCの撤廃やマイナス金利の解除を検討するとの考えを表明した。経済状況について、植田総裁は、景気は緩やかに回復しているとの従来からの判断を維持した上、先行きも緩やかな回復を続けるとした。また、企業の賃金・価格設定行動に、従来よりも積極的な動きが一部で、見られ始めていることを認めた。
物価については、大幅な物価上振れが現時点で生じているとは思っていないとの認識を示した上で、今後は、ガソリン価格を抑制する政策からの影響も考慮しつつ、データを精査するとの展望リポートに沿った説明をした。物価目標については、持続的・安定的に実現すると見通せる状況には至っていないとして、粘り強く金融緩和を続けていることを説明した。引き続き、物価上昇に火がついてしまうアップサイドのリスクよりも、物価上昇が持続的にならず低下してしまうダウンサイドのリスクを重視しているとして、従来のスタンスと変わっていないと説明した。
金融政策の修正を検討する時期については、現状は、経済や物価に関しての不確実性が極めて高く余談を許さないとして、事前には決め打ちできない状況であると述べた。
市場の反応は円安・金利低下
日銀の政策変更なしは金融市場に織り込まれていたが、サプライズの可能性も残されていると一部の参加者は構えていたため、金融政策スタンスはハト派的との印象で受け止められた。金利の正常化に向けての動きが出るとの期待もあったが、肩透かしだった。決定内容の発表後、為替市場では日本円が売られ、ドル高・円安が進行、148円30銭台まで円安となった。10年日本国債利回り(長期金利)は0.75%から0.735%と小幅ながら低下した。金利低下を受けて株式相場は下げ幅を縮小し日経平均株価は32,402.41円と前日比168.62円(0.5%)安で引けた。
日本の消費者物価指数は高止まり
総務省が22日に発表した8月の全国消費者物価指数では、生鮮食品を除くコアCPIの伸びは、食料品やガソリンの値上がりを受けて前年同月比3.1%となった。これで、上昇率は12カ月連続で3%を超えたことになる。品目別では、電気代が同20.9%下落、都市ガス代は同13.9%下落と前月から減少幅を拡大した。一方で、生鮮食品を除く食料は価格転嫁の動きが止まらず同9.2%上昇、ガソリンも同7.5%上昇とプラス幅は拡大した。観光需要回復に伴って宿泊料も同18.1%上昇とコアCPIの押し上げ要因となった。政府による電気・ガス価格激変緩和対策事業の影響を除いたコアCPIは前年同月比4.1%上昇と高い水準を示した。生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは同4.3%上昇となり、1981年以来の高い水準だった今年5月と7月の上昇幅に並んだ。日銀が目標とする2%を上回る物価上昇が続いており、インフレ圧力は緩和には向かっていない。
こうなると、いくら植田総裁がダウンサイドのリスクを強調しても、金融政策の正常化にいつ踏み出すかわからないとの見方は強まり、政策変更はいつ起こっても不思議ではないとの観測はくすぶるだろう。まさに暗闇の中を歩むがごとくである。