日銀は『金融緩和ひとり旅』

肥大化する日銀のバランスシート

日本銀行が公表した2021年度決算によると、バランスシートは、資産が前年度比で3.0%増えて総額が736.2535億円と過去最高になった。黒田総裁の下で、アベノミクスの三本の矢の一つとして大規模緩和を実施してきたこともあり、同総裁の就任する前と比較すると、バランスシートの規模は4倍を超えて膨れ上がっている。
また、日銀は、新型コロナウイルスの感染拡大後に、経済対策の一環として貸出を増やした。それにより、バランスシートは更に膨らんだ。2021年決算では、貸出金は前年比20.4%増と急増して151.5328兆円に拡大している。そして、最も際立っているのが、国債残高である。日銀は2020年度、日本政府がコロナ対策予算を賄うために発行した多額の国債を市中から買い入れた。そのうち短期国債が2021年度に、満期償還を迎えたことから、国債残高は2020年度比では1.1%減ったものの、総額では526.1736兆円と引き続き高い水準にある。
株式市場で日銀が買い入れる上場投資信託(ETF)も増え続けている。簿価では、ETF残高は前年比1.9%増の36.5657兆円となった。時価で評価すると約51兆円で、これは旧東証1部の時価総額の約7%にあたる規模となる。

YCC維持のために国債を大量に買い入れ

今年度に入って日銀は、大規模に国債の買いオペ(買入れオペレーション)を繰り返している。世界的なインフレ圧力の強まりから、どの通貨にも長期金利には上昇圧力が働いているが、日銀は、景気下支えのための金融緩和政策の一環として、イールドカーブ・コントロールを維持し、長期金利が上限金利を超えて上昇しないよう死守している。具体的には、国債をYCCの上限として定めているガイドラインの金利(10年国債利回り0.25%)で買い入れるオペレーションを金額の上限を定めずに繰り返し実施することで、金利の上昇を抑えこんでいるのである。なりふり構わず、打てる手はすべて打って金融緩和姿勢を維持している。
この国債買い入れオペを6月は断続的に、過去最高額の水準で連日実施しており、日銀の日本国債の保有残高は大きく膨らんだ。現在では、国債発行残高のほぼ50%を保有していることになる。これほど多く(自国の)国債を保有している中央銀行は他にはない。

『出口戦略』は?

こうしてみると、日銀のバランスシートは膨張を続けている。これに対して、米FRBや欧州中銀(ECB)、英BOE、豪RBAなど、主要中銀は、程度の差こそあれ、バランスシートは縮小する方向に動き始めている。それぞれ、超金融緩和政策の『出口戦略』を練って、市場を混乱させずに、緩和政策からの転換を図っている。そういう点では、日銀の立ち位置は、周回遅れの位置に見える。

主要中銀は、量的な緩和政策を転換して、市中に流れている資金の量を減らす段階に入っている。そうなると金融市場でのリスクマネーは自然と減ることとなり、これが株式市場での調整につながっている部分はあるだろう。しかし、これまでのところ、そこまでの大混乱とはなっていない。

本当に、怖いのは、周回遅れの日銀が、これまでとは違う方向に走り始めたときではないだろうか?時価総額の7%を保有する投資家が、売りに転じたとき、株式市場は、耐えられるだろうか?これには、売却を凍結するなど、様々な方策が思案の対象になってきているようである。そして、国債については、もっとマグネチュー度は大きい。何しろ、日銀は発行量の50%を抱えているのである。インフレが制御不能になる兆しが生じれば、債券価格は急落する。そうなると日銀がこれほどに日本国債を保有し集中しているリスクは、どうやっても回避することができないだろう。世界第3位の国債市場が売りを浴びせられたとき、日銀が被る損失は、計り知れないものになる。緩和を手じまいする「出口戦略」に踏み出したとき、世界が大きな混乱に陥るリスクはますます膨らんでいると言わざるをえない。

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