オーストラリアも止まらぬインフレ率上昇に苦しむ
5月3日、オーストラリア準備銀行(RBA)は、理事会を開催し、政策金利を0.25%引き上げ0.35%とすることを決定した。RBAは、オーストラリアのインフレ率が、前回理事会で予想していたよりも、著しく速いペースで上昇・加速していることを認め、新型コロナウイルス禍の経済的な打撃を緩和するために、金融支援策として金利をゼロにしていた異例の措置を解除する時であると判断したことを宣言した。
CPIの上昇を抑えて、インフレ目標に納めるには、今回の利上げのみに限らず、更なる利上げが必要であり、今後の金利上昇のタイミングと上げ幅を決定するため、データや変化するリスク・バランスを注意深く観察していくことにも言及した。つまり、更に利上げを見込んでいるということである。
RBAのバランスシートに関しても、今後、売却を始め、数年以内にバランスシートの著しい縮小を見込むことを明言した。これまで資金供給のために買い入れてきた債券を段階的に売却することを意味する。すぐに売却し始めることはしないものの、満期を迎え償還された債券の元利金を再投資することはないとも明言した。
先月発表された2022年1~3月期のオーストラリアの消費者物価指数(CPI)は前年同期比で5.1%増加だった。インフレ目標の2.00~3.00%を大きく上回る状況である。RBAのこれまでの方針として2024年までは利上げをしないとしてきたが、インフレ率の上昇が顕在化する状況に、この方針を急転換した。
RBAは6日に公表した金融政策に関する四半期報告で、インフレ見通しを大幅に引き上げ、コアインフレ率が年末までに4.6%に到達するとの見通しを示した。金融引き締めが長期化する可能性も示唆されている。ロウRBA総裁は「理事会は豪州のインフレ率が時間の経過とともに目標に回帰するよう図るため、必要な措置を講じる決意だ」と表明し、「今後の追加利上げが必要」になると断言とした。
米ドルとの金利差が拡大することを嫌って、オーストラリアドルを売り込んできた市場に変化が出る可能性に注目したい。利上げ後、オーストラリアドルは水準を切り上げ1豪ドル=0.71ドル台にある。1豪ドル=0.70米ドルは中長期での豪ドル買いのポイントであることは繰り返し述べてきたが、引き続き豪ドルを仕込む機会と考える。
なお、オーストラリアでは5月21日に総選挙が実施される。選挙戦では、賃上げや不動産高騰・物価上昇対策が争点となっており、野党労働党の攻勢ぶりが目立っている。そのため、モリソン首相率いる与党保守連合(自由党・国民党)は、世論調査でリードを許している厳しい状況が伝えられている。劣勢が伝えられる中、奇跡的な僅差で与党が勝利した2019年の総選挙の再現なるか注目される。
イングランド銀行も利上げ実施
英国イングランド銀行(BOE)も5日に開催された金融政策委員会(MPC)で利上げを決定した。政策金利はこれまでの0.75%から0.25%幅引き上げられ1.00%となった。イギリスの消費者物価指数は3月の統計で前年比7.0%の増加となっているが、BOEは10月にはインフレ率が10%を超えるとの見通しを示した。賃金上昇率も5.75%と高い伸びを示すとしている。いずれも、2月時点の予想から大幅に引き上げられた。
エネルギー価格上昇を中心に実質所得が減少する事態が起きており、英国民、特に低所得層にとっては大変な苦境となっている。インフレ率が懸念通り2桁台に上昇した場合、英国経済はマイナス成長に陥る懸念が強まる。今年月第4四半期(10-12)は1%近いマイナス成長に陥るとBOEでは予想しているようである。今回も、MPCメンバーのうち6人は今回も0.25%幅の利上げを支持したが、残る3人は0.50%の利上げを主張、高インフレの抑制と新型コロナウイルス禍からの景気回復を両立する道は険しいだろう。
BOEによれば、金利が現在の1%にとどまるシナリオの場合、発生する失業者数は44万人少なくなり、2023年、2024年とも経済成長率は約1%のプラスに改善する。しかし、BOEは、来年半ばまでに政策金利を2.5%に引き上げることを想定している。その場合は、2024年英国経済はゼロ成長にとどまると見込まれる。失業率は直近の3.8%から5.5%に跳ね上がり、約60万人の失業者が発生するとの予想が示された。