インドルピーが安値更新

 
為替相場では、米ドルが主要通貨に対して全面高の様相が続いている。米FRBの金融政策が引締めに転換し、急ピッチで利上げが実施されるとの観測が強まっていることが背景である。利上げを実施しても、インフレ率を制御できなければ、FRBはより踏み込んだ対応を取り、金利の上げ幅が大きくなる可能性がある。先週末6日の時点で、ドルインデックスは103.66まで上昇して先週の取引を終え、これで、5週続けての上昇となった。米ドル高の影響は、アジア通貨にも出ている。その中でも、インド・ルピーの下落が目立っている。インド・ルピーは1ドル=77.40ルピーを付け、最安値更新した。
 
ルピー安の要因は以下の通り4つあると考えられる。主因としては、インド経済が、原油の輸入大国で経済構造からは、原油価格の影響を受けやすいという弱点にある。インドのインフレ動向は、原油価格の動向次第という側面は強い。原油高は、インフレ加速、通貨安、財政赤字拡大などを通じてインド経済にマイナス圧力をもたらす。原油価格が上昇している背景として、世界主要各国で「ウィズコロナ」路線への方針転換と、それによって今後のエネルギー需要が増加すると予想されること、ウクライナ情勢の長期化により対ロシア経済制裁は長引き、供給面での制約から価格の下方硬直性が高まることが懸念される。
 
厳格なロックダウンによる一時的な輸入の急減を背景として、2020年以降、インドは、経常黒字を続けてきたが、活動規制が段階的に緩和されていることから、輸入は徐々に持ち直してきたため、貿易収支は赤字に転落、輸入物価の高騰によって、むしろ拡大傾向にある。原油高が長期化した場合、経常赤字はさらに拡大するだろう。これが第二のルピー安圧力である。
 
第3には、財政赤字の拡大であろう。インド政府はコロナ禍で大幅に悪化した財政の立て直しを進める方針を示しているが、原油価格の上昇でインフレに対応するための追加財政支出が必要となり、財政再建は遠のく可能性がある。モディ政権は、燃料価格抑制に向けたガソリン税の税率引き下げ、食料や肥料などへの補助金の積み増し、低所得者・中小零細企業への支援策などを検討しており、インフレ対応策が第第的に行われた場合、その影響は看過し難い。
これに米国の利上げによる米ドル金利の上昇で、金利差からのルピー安圧力が加わる。インド準備銀行が米国に追随して利上げする可能性があるが、この場合は、ルピー安を通じたインフレ圧力は軽減できても、金融機関の貸出金利が上昇することで、結局は内需を押し下げてしまう結果となる可能性も高まる。
 
インド準備銀行(中央銀行)は5月9日に、対米ドルでのルピー急落を抑制するため市場介入を実施したと伝えられた。急ピッチでルピー安が進むと、輸入インフレの懸念が強まることから、介入を実施したと推測される。インドには約6000億ドル(約80兆円)規模の外貨準備高があり、昨年のトルコリラのような大幅な安値更新という事態は想定しづらい。ただ、株価は年初来で6%以上下げた水準にあり、昨年大幅に上昇したインド株式市場にも変化が出てきている。金利も上昇傾向で債券価格も下落し、通貨ルピーの下落を合わせると、トリプル安の様相である。外国人投資家は、インフレへの警戒感を強めてインドからの資金引き揚げに転じている。