政策発動への期待は高まるも・・・
国慶節の大型連休を前に、中国共産党と中国政府は、経済成長てこ入れに向けて、大規模な景気対策を取りまとめた。対策の柱としては、約2兆元相当の特別国債を発行して、財政政策を発動することと、決定済みの政策の実行を前倒し・徹底すること、金融緩和を積極化すること、住宅取得に関する規制を撤廃すること、住宅ローン金利の引き下げを行うこと、などである。
今回、注目すべき点は、党政治局が、全人代で提示した年間経済目標の達成をコミットした上、国務院に対して、十分な財政支出を行うよう指示したことであろう。党の最高意思決定機関である政治局が責任の統合や部門間の連携強化など、細かいところまで指示している。これまでは、指揮命令系統がばらばらで、中央と地方で取組にチグハグとなっていたところも多かったが、それを統合して取り組むということになろう。
李首相も、国務院会議での演説の中で「あらゆる方面の意見に耳を傾ける」としたうえ、既に決定している5カ年計画に盛り込まれた主要プロジェクト102件の実施ペースを加速させ、経済運営上の重要課題にしっかりと対処していくと述べた。国務院としても、目の色を変えてでも実行するということだろう。
中国人民銀行も、これまでの『渋々の金融緩和』姿勢を転換し、積極的な金融緩和姿勢を明確にするという。具体的には不動産市場対策として、既存の住宅ローン金利を引き下げるほか、住宅取得時のローン制限などを撤廃する方針を示した。中国人民銀行の声明によれば、「穏健な金融政策を正確かつ効果的に実施するとともに、景気循環調整に一段と配慮する」と明言した。また、既存の住宅ローン金利を引き下げ、不動産市場の「安定的かつ健全な発展」を促進するための計画にも着手するという。
中国財政省は、家庭と企業を対象とした既存の商品下取りプログラムを拡大するほか、子どもが2人以上いる世帯には子ども1人につき毎月約800元の手当を支給するなどして消費喚起に向けた取り組みを実施するという。
これらに加えて、資金を証券会社や保険会社に融資し、中国株の購入を支援する制度も発表された。株価にダイレクトに働くと予想されるため、ひとまず、株式相場は上昇した。国慶節前の市場の反応は悪くなかったと言える。中国本土株・香港株とも急反発し、CSI300指数は9月30日の取引だけで一時、前日比6.5%上げ、2015年以来の大幅高となった。先週は、本土株式市場は休場だったが、香港取引所での株取引は活況を呈し、ハンセン指数は今年の安値から30%高い水準まで株価を戻した。
週明けの中国株式市場は、連休前の急反発の流れを引き継ぐかに注目が集まったが、一部期待していた政府による追加の成長刺激策は発表されず、9日の本土株式・香港株式ともに値を下げた。
前述の特別債の発行額は昨年の国内総生産GDPの1.4%に過ぎず、「何でもやる」という割には、大盤振る舞いとは言い難い。リーマンショックの際、2009年に打ち出した景気刺激策は4兆元の規模でパッケージが出ており、国債の発行額だけを見れば、金額的には見劣りする。
政府は住宅ローン金利と2軒目購入に必要な頭金比率を引き下げて、低迷する住宅市場を活性化させようと目論んでいる。しかし、これで住宅需要が直ぐに盛り上がるかと言われれば、肯定することは難しいだろう。中国の消費は、金融市場や経済成長よりも、住宅価格との相関性が高いと言われている。家計の純資産のうち、約6割を不動産が占めるため、住宅価格下落による家計への影響は色濃くなる。
問題は、経済全般に対する懸念が重なり、消費者信頼感は悪化しているということである。今回の経済対策により投資家心理が改善するかどうか、消費者の心理が変化して消費が回復するか、慎重に見極めが必要である。