大逆転での高市氏を破る
金融市場の反応は厳しい洗礼に
9月27日、過去最多の9人で争われた自民党総裁選挙は、大混戦を制した石破氏が自民党の新総裁に選出されて終了した。1度目の投票では2位に甘んじた石破氏だったが、決選投票で高市氏を逆転する劇的な勝利だった。
ただ、当日の金融市場の反応は厳しいものとなった。第1回投票で、経済成長の促進に積極的な高市氏が1位となり、決選投票でも優勢との見方が強まると、高市勝利を先取りする形で株高・円安・イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化が進行した。日経平均は39,600円台に上昇、上昇率は前日比2%を超えた。ドル円も146円台に乗せ、円が対ドルで1%以上下落、一時前日比1.2%安の146円49銭まで下落し、3日以来の安値を付けた。日本国債利回りは低下した。高市氏の経済成長重視の姿勢を反映して株高、金融政策ではハト派寄りのスタンスを期待した金利の低水準維持、それに基づく円安圧力の継続という反応だった。
しかし、決選投票で、石破氏が高市氏を逆転して勝利し、自民党総裁に選出されると、市場は石破氏の経済政策方針に反応した。アベノミクスの3本の矢のひとつが、長らく続いた金融緩和であったことから、総裁選でアベノミクスの継続を訴えた高市氏が勝てば緩和政策の長期化を、アベノミクスに批判的な石破氏が勝てば緩和政策からの転換が進むと市場がとらえた。株安・円高が急激に進み、日経平均先物は2,500円程度急落し、ドル円は146円台から143円台へと円高が進んだ。
石破氏の政策は?
石破新総裁は、経済政策について、首相就任後3年以内のデフレ完全脱却を最優先課題として掲げ、賃上げと投資拡大を推進した岸田政権の政策を継承すると明言している。短期的には、生活必需品の価格上昇対策や住宅ローン金利上昇への対応策をうちだしつつ、中長期では、賃上げ環境の整備、少子高齢化対策、地政学・災害リスクに備える「危機に強い経済財政」の確立などを総裁選の公約に明記した。
財政政策では、「成長型経済の実現」を目指し、機動的な財政出動を行いながら経済成長と財政健全化を両立するとしている。雇用の拡大や所得の向上によって消費を活発にし、経済成長を達成できれば、税率は上げずに税収を増やすと主張している。ただ、その実現性は困難であることも事実であろう。また、政府債務の利払い費増加を懸念する立場から、財政再建を訴えてきた経緯もあり、「積極的な財政出動と戦略的投資」と財政再建のバランスは、見通せない。どれほど機動的な動きを取れるのかが気になるところである。石破氏は、消費税率は当面維持するとの姿勢を示しながらも、「法人税は引き上げる余地がある」との発言もあるうえ、富裕層優遇を見直すため金融所得課税の強化にも一時言及した。更に、岸田政権が決めた防衛増税を実行に移すかどうかも含め、増税に軸足があるのではないかとの疑念が金融市場にある。
金融政策スタンスでは、「アベノミクス」の柱の一つだった異次元金融緩和の長期化を、国家財政の借金依存が深刻化した原因として批判していることが注目されている。特に、今年に入ってから利上げを実施してきた日本銀行による「金融政策の正常化」の動きが、それを支持しするとしている石破氏のサポートで、より早まるのではないかとの連想は働きやすい。7月の日銀による追加利上げによって台頭した、日銀の金融引き締め継続・円金利の上昇観測は、一旦、1ドル=160円から140円台前半への円安修正と、それに伴う物価上昇圧力の一服によって、後退したが、石破政権の誕生で再び高まる可能性がある。この点は、アベノミクスの継承を掲げて総裁選を闘った高市氏との違いが際立つ結果となっている。
政策を見極める必要はあるが解散となれば不透明なままの相場が続く
いずれにせよ、石破氏がどのような政策を採るのか、見極める必要が出てくる。しかし、はっきりしてくれば来るほど、金融市場の期待にそぐわない部分も明らかになることが懸念される。また、9月29日までの報道によれば、自民党は早期解散に向けて走り出したとのことである。これは、石破氏が総裁選で述べていた、政権構想を示してからという意向に反する。支持率が高く、野党が準備を整える前にとの思惑だろうが、これで果たして自民党が変わったという印象を与えられるのだろうか?「刷新感」とは何なのだろう。自民党は、反省も変わることもないのかという疑念を国民は強めるのではないか?その場合、短期政権に終わる可能性も、無くはない。総選挙が終わるまで、先送りされそうな気配である。