雇用者数は事前予想を下回るも、失業率は低下
9月6日、米国労働省は、8月の雇用統計を発表した。
非農業部門雇用者数の伸び(事業所調査・季節調整済み)は前月比14.2万人増加した。7月の雇用者数は速報値11.4万人増から8.9万増に下方修正された。6月分も下方修正されたため、3カ月平均の非農業部門雇用者数は、2020年半ば以来の最も低い伸びとなった。セクター別では、製造業や小売り、情報業界で雇用減少が続いた。教育・医療の雇用者数は2022年以来の低い伸びだった。一方で、娯楽・ホスピタリティーや建設、教育・医療などでは雇用は増えた。民間部門の雇用者数だけでみると3カ月平均では9.6万人増と10万人を割り込んだ。10万人増という水準は、米雇用市場における労働者数の自然増加に均衡する水準で、それを下回ったことは、軽視できることではない。
家計調査に基づく失業率は7月の4.3%から4.2%に低下し、5カ月ぶりに小幅改善した。企業が先んじて雇用を減らしてきた流れが止まったことが影響している。労働参加率は62.7%で、前月と同水準だが、25-54歳で見ると参加率は今年3月以降で初めて低下した。
平均時給は前月比0.4%増と伸びが加速した。7月は同0.2%増だった。前年同月比では3.8%増だった。労働者の大半を占める生産部門および非管理職の賃金は4.1%上昇した。賃金上昇圧力は、依然として根強いことが示された。
雇用統計全体のトレンドで見ると、今年初めほどの雇用市場の堅調さは感じられない。今年半ばに差し掛かって、軟化する傾向が鮮明となって来た。それは、米国経済のスローダウンの可能性が高まっていることも示唆する。しかし、一方で、インフレ圧力の抑制は、期待していたほど、すんなりと「望ましい結果」が得られているわけではない。インフレ圧力の抑制と雇用市場の最大化という二つの目標を両にらみするスタンスに移行したFRBとっては、難しい局面が到来したことになる。
雇用統計を受けて、金融市場では、9月FOMC会合で、0.50%幅の利下げが実施されるとの見方が強まった。9月FOMCでは、利下げを実施するとの予想では一枚岩であるものの、下げ幅を巡っては、意見が真二つに分かれ始めている。
グールズビー・シカゴ連銀総裁は、6日の雇用統計の発表後に、FRBは雇用市場の健全性を維持するために政策金利を引き下げる必要があると述べた。また利下げは、複数回に及ぶとの考えを示した。インフレ率は毎月、低下しているうえ、FRBが過去に行った金融引き締めが、雇用市場を冷え込ませてきており、向こう数カ月間は、事態の一段の悪化を防ぐように行動する必要があるとして、単発ではなく、複数回の利下げを予想した。
筆者は、今回は金利を0.25%引き下げて、雇用市場が一段と冷え込む兆しが示されれば追加措置を講じることをコミットすると予想している。大幅利下げを正当化するには、インフレ圧力の緩和を示すデータが必要だろう。