修正を迫られる米利下げシナリオ
2023年末の時点で、金融市場では、米FRBによる利下げ観測が織り込まれていた。2024年3月のFOMC時点で、利下げは開始され、5月FOMC、6月FOMCでも立て続けに利下げが実施されるとのシナリオで2024年中に0.25%幅の利下げが計6回も実施されることを織り込んでいた。その流れを変えたのは、パウエルFRB議長の警告で、彼は3月利下げの可能性は低いと強い明確なメッセージを市場に送った。
更に、市場に利下げの実施が近い将来ではないことを思い知らしめたのは、2月13日・16日に公表された消費者物価指数CPIと生産者物価指数PPIである。両物価指数は事前の予想を上回り、前月比でも物価が低下・改善していないことを示した。またCPIのサービス価格は、過去約2年で最大の伸びすら示した。1月の雇用統計でも、雇用市場の堅調ぶりが示された。
先の長いインフレとの闘い
インフレとの闘いは、長く厳しいものになると誰もが認識するようになってきているが、どのようにインフレ率が目標の2%に収斂していくかを具体的に言い当てることは難しい。金融市場は、年末に織り込んでいた6回もの利下げシナリオを大幅に修正する必要に迫られた。それがこの2月の米ドル金利の急上昇である。
また、こうしたデータは、FOMCのドットプロットにも影響する可能性がある。12月FOMCのドットプロットでは、0.25%幅で3回の利下げが示唆されていた。2月16日には、中道派とされるデーリー・サンフランシスコ連銀総裁が、年内の計75bpsの利下げは「合理的な基本予想」だと述べた。しかし、これにも修正が加えられる可能性は十分にある。
米FRBの次の動きは、利下げではなく利上げ?
次のFRBの金融政策に関するアクションが利下げではなく、利上げなのではないかという議論も出ている。サマーズ元米財務長官は16日、次の動きが利上げになる「可能性はそれなりにある」と発言した。当局者の中に、次のアクションが追加利上げとなる可能性に触れた者はいない。しかし、好調な米国経済の指標が続けば、金融市場はそうした可能性を織り込んだシナリオにフォローしてくることがあるかもしれない。そうなったときには、為替相場でのドル安観測や株式相場での過度な楽観論は、変更を迫られる可能性もあろう。
ただ、パウエル議長は1月31日に、「政策金利は今回の引き締めサイクルにおけるピークを付けた可能性が高い」と発言したことも事実である。これは、利上げ再開が難しいことを示している。そうだとすると、浮上するのは、利下げを短期間実施し、幾分金利が低下した後、経済成長に対応して、利上げに転じるというシナリオである。実際に1990年代後半は、こうしたことが起こった。金融政策に関しては決め打ちせず、やや柔軟に考えていくことが重要になると考えておいたほうが良さそうである。