パウエル議長発言を解説
11月30日パウエル議長はブルッキングズ研究所で講演し、今後の金融政策スタンスに言及した。金融市場が注目していたパウエルFRB議長の講演の内容を解説する。
主な点は以下である。
- 政策金利引上げのペースを12月FOMCから減速させる
- 利上げは継続し、金利を当面の間、景気抑制的な水準にとどめる必要がある
- インフレとの闘いは長く厳しい。
1については12月13~14日に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)会合での政策金利引き上げ幅を0.50%幅にとどめるということを意味する。利上げのペースを落とす可能性があると明言した。FOMCは11月までの4会合で続けて政策金利を0.75%引き上げていた。
2については、9月FOMC時点で2023年のターミナルレートは、予測中央値で4.6%としていたが、これを「若干上回る」公算が大きいと語った。12月FOMC会合でこの予測が更新されるが、4.6%を上方修正することが考えられる。インフレ抑制に向けあとどの程度金利を引き上げる必要があるのかは難しい判断ではあるが、パウエル議長は楽観的な考えは持っていないことがわかる。また政策を景気抑制的な水準でいつまで維持する必要があるかという問題も難しいが、より長い期間金利を高めに維持するとのイメージを持っていることが明らかである。金利先物市場は政策金利が5%前後に到達した後、来年第2四半期中に利上げを停止するとの見通しを織り込んでいる。金融市場は、2023年半ばにはFRBが利上げを停止し、その後、早いうちに利下げが開始されると予想する参加者が増えている。しかし、パウエル議長は、それほど早くに、利下げを想定していないと語った。もっとも気を付けておかないといけないことは、利上げのペースを減速すること(すなわちポイント1)より、ポイント2の方が重要性は高いと認めていることである。
3については、インフレが実際に鈍化してきていると安心するためには、さらに多くの証拠が必要で、インフレの先行きは引き続き極めて不透明だと説明した。最近のインフレ統計データは、物価上昇圧力がピークアウトしたとみている市場参加者も増えているが、パウエル議長は、物価上昇ペースの鈍化を示した証拠は、まだ十分に得られていないとしている。
今年、金融を引き締めて、経済成長は鈍化してきたが、インフレ抑制には、まだ道のりは長いと語った。
パウエル氏のコメントを受け、金融政策見通しに敏感な米2年債利回りは低下した。S&P500指数は上昇に転じ、金利の動向により敏感なナスダック総合指数は前日比4.4%上昇、半導体指数SOXに至っては同5.8%上昇した。為替市場では米ドルが主要通貨に対して下落した。ドル円は、137円台に軟化し、12月1日には135円台まで下落している。
ただ、上述のとおり、インフレがピークアウトを迎え、鎮静化に向かっているとの確たる証拠はない。パウエル議長のコメントのすべてを読み込めば、やはり早計な解釈と言わざるを得ない。株価には下値の不安は和らぎ、為替でのドル高の勢いはピークアウトしただろうが、まだまだ、相場の波乱は続くのではないか。