バイナリー社がFTXを救済?
11月9日、暗号通貨市場では、再び激震が走った。交換業者大手であるFTX社が流動性危機に陥っていることが報道により明らかになったからである。同社のバンクマンフリードCEOは、追加資金の投入がなければ、破産法の適用を申請せざるを得なくなると語り、最大で80億ドルもの資金が不足していると公表した。
前日に、FTX社の米国外の事業を買収すると、競合である交換業者バイナンス社が名乗りを上げていた。しかし、買収含みで一旦趣意書は提出したものの、FTX社の内容を確認してみると支援するには負担が大きすぎて、バイナンス社はFTX社を買収する方針を撤回した。バイナンス社はFTX顧客を取り込むことを目論んだが、FTX社の支援はバイナンスには手に負えない取引だということが数時間で明らかになったようである。FTX社の財務内容が想定以上に悪化していたことを意味するだろう。
米当局はFTX社を調査
これに加えて、米国規制当局がFTX社の事業に関して調査を進めていると報道されて、FTX者をめぐる混乱には拍車がかかった。米国証券取引委員会(SEC) や商品先物取引委員会(CFTC)が、調査に乗り出していると報じられたのである。調査の対象となっているのは、FTX社が顧客の資産を適切に管理していたかということや、創業者のバンクマンフリード氏が行っているトレーディング会社「アラメダ・リサーチ」とFTX社の米国における事業などと伝わった。顧客から預かった資産を他に流用したのではないかとの疑いや、暗号資産を貸し出す事業が適切に運営されていなかったことを問題視しているとも推測されている。こうしたことが事実であれば、顧客資産の保護や分別管理の観点からは極めて不適切なことである。
暗号通貨の交換業者の中でも、FTX社は優等生とみなされ、同社の価値は2022年初めには325億ドル(約4.7兆円)と高く評価されていた。最近の資金調達では、名前の知られたファンド会社や金融業界の著名企業、セレブリティ投資家などからも資金を得ていたほどである。しかし、事態は一気に暗転した。このままではFTX社に投資された資金の大部分は回収不可能になるだろう。
年初来60%安の水準
暗号通貨は、今年、世界的に金利が上昇する中で、リスク回避の動きから大きく価格下落している。今回のFTX社の経営危機により、11月10日現在、ビットコイン(BTC)は16,160ドル、イーサ(ETH)は1,130まで下げた。BTCは年初来で61%、ETHは64%下げた水準にある。高い評価を受けていた交換業者でも、今回のようなスキャンダラスな出来事が起こったことは、暗号通貨への不安を増幅する結果となるだろう。
また、今回の相場の下落で、レバレッジ取引によって仕込まれたロングポジションを解消する影響もあると指摘されている。暗号通貨の取引では、現物の売り買いよりも、暗号通貨を担保に資金を借り入れ買い持ちのポジションを取ることが多い。この取引は上昇するときは良いのだが、市場の価値が低下して借り入れの担保価値が下がると、マージンコールと呼ばれる追加担保の差し入れまたは保証金の積み増しが請求される。それを回避するためには、一定水準まで下がると、ポジション自体を解消する動きに殺到することになる。FTX社やアラメダ社の破綻をきっかけに暗号通貨取引のレバレッジ解消がドミノ倒しのように起きている可能性は高い。
暗号通貨の取引には、透明性や公正さが求められると言われて久しいが、今回のFTX社の事案は、改めてこの市場の危うさを浮き彫りにした。また、主要な交換業者などでも、資本力は乏しく、会社の経営に必要なバランスシートの健全さは、持ち合わせていない可能性を感じさせた。市場へのダメージは小さくないかもしれない。