1年物LPRと5年物LPRの両方を引き下げ
8月22日、中国人民銀行は、ローンプライムレート(LPR)の1年物を0.05%、LPRの5年物を0.15%引き下げると発表した。中国政府は消費が伸び悩む中で、不動産市場の悪化を懸念する姿勢を鮮明にしており、企業や消費者のマインドを下支えすることを狙って、LPRの引き下げを決断した模様である。
貸出金利の指標とされる1年物LPRは従来の3.7%から3.65%に引き下げられた。1年物の下げは今年1月以来となる。ただ、市場では0.1%程度の引き下げを期待しており、ややインパクトは薄いのではないか。一方で、住宅ローン参照金利とされる5年物LPRはこれまでの4.45%から4.3%に引き下げられた。こちらは、前回5月に0.15%引き下げられた後、再び0.15%幅の引き下げと一年物LPRより大幅に引き下げられており、不動産市況への配慮がうかがわれるとの評価である。
不動産開発業者の手掛ける開発プロジェクトは各地で遅延が発生、住宅ローンを借りて購入していた消費者の一部は、ローンの支払いを拒むものも出てきている。また、不動産市況が低迷する中、消費者には買い控えの動きもみられる。住宅ローン金利を引き下げることで、住宅販売にてこ入れを図るとの意図は見え隠れする。
人民銀行は特別融資枠も設定して不動産市況の悪化に歯止め
これに先んじること、19日には、人民銀行はまた、途中で止まっているプロジェクトについて、不動産が購入者に確実に引き渡されるよう、住宅都市農村建設省と財政省と連携して、政策銀行を通じて特別融資を提供すると2省庁と共に発表した。住宅ローンを組んで開発業者の物件を購入したにもかかわらず、未完成のまま放置され引き渡されていない物件に対しては、住宅ローンの返済をボイコットする動きが中間層に広がっており、このままでは社会の安定を脅かしかねない事態も考えられる。当局は不動産開発会社の資金不足で建設が止まっている住宅プロジェクトについて、買い手に引き渡しを確保するために特別融資2000億元(約4兆円)を提供する。人民銀と財政省が主導して、国家開発銀行や中国農業発展銀行といった政策銀行が融資資金を融通するという。特別融資の対象となるのは、未完成の売却済み住宅のみだという。
不動産価格の低迷や不動産販売の減少は不動産開発業者の経営状況をさらに悪化させている。経済危機が社会的な危機に繋がることを恐れる中国政府は、これまでに打ち出した財政支援策としては最大規模に匹敵する対策を講じようとしている。そして、この秋は中国共産党が5年に1度の党大会開催を予定している。この大会では、習近平国家主席の3期目続投を決めると言われており、やはり経済や社会の混乱は回避しておきたいというのが共産党首脳部の本音というわけである。