コアCPIの予想上振れとインフレ再燃
2026年9月の米消費者物価指数(CPI)は、総合指数が前月比0.6%上昇し、市場予想と一致した。一方、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは同0.3%上昇し、予想の0.2%を上回った。詳細値は0.335%と高めで、予想を上回るのは2カ月連続となった。3カ月前対比の年率換算も3.4%へ加速しており、物価上昇の勢いが再び強まりつつあることを示唆した。
内訳を見ると、財のコア価格は前月比0.3%、サービスのコア価格は同0.4%上昇し、いずれも伸びが拡大した。モノの価格だけでなく、人件費の影響を受けやすいサービス価格にも上昇圧力が残っている。特に、住宅を除くサービス価格が高止まりし、住居費の鈍化も限定的だったことから、幅広い分野で物価上昇が続く構図が改めて浮き彫りになった。
利上げ観測と金融市場の反応
CPI発表後、金融市場ではFRBが追加利上げにより早く動くとの見方が強まった。10月のFOMCで0.25%ポイントの利上げが行われる確率は約33%、年内に利上げが実施される確率は約91%まで上昇した。ただ、金融引き締めの長期化が景気を冷やすとの懸念も広がり、米国債市場では短期金利の上昇を中心にイールドカーブがフラット化した。外国為替市場では米ドルが下落に転じ、株式市場も軟調となって、インフレと景気減速が同時に進むスタグフレーションを警戒する動きが見られた。
実質賃金低下とFRBへの含意
一方で、物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、実質平均時給は前年同月比0.7%減、実質平均週給も同0.1%減となった点は注目であろう。家計の購買力が低下すれば個人消費の減速につながり、景気の下押し要因となる可能性が高まる。FRBにとっては、根強いインフレを抑える必要から利上げを選択する可能性が高いが、追加利上げにより家計や企業への負担をさらに高め、景気の失速を招くリスクも見え隠れする。10月FOMC会合では、政策金利を据え置き、こうした点を見極めて、なお物価の高止まりが続けば、12月以降の追加利上げを実施する選択肢が現実的とみるべきであろう。
原油価格は一段高に
先週の原油市場は、供給途絶への警戒から一段高となった。16日の終値は北海ブレント先物が1バレル=109.86ドル、米WTI先物が101.41ドル。週間ではブレントが4.9%、WTIが10.4%上昇した。原油価格に再び上昇圧力がかかっている背景には、単純な「原油不足」への懸念もあるが、原油をディーゼルなどに転換する精製能力が世界的に不足している点を踏まえておく必要がある。
ロシアの供給能力は「原油生産」より「精製」に制約
ロシアは、米国に次ぐ世界有数のディーゼル輸出国であり、欧州、アフリカ、中南米などの輸入市場にとって重要な供給源である。しかし、定期修繕、部品調達の制約に、ウクライナによる製油所への攻撃も重なり、原油を軽油・ガス油へ加工する能力が大幅に低下した。これは油田から原油を産出できるかどうかとは別の問題で、製油所が止まれば、ロシア国内では原油が余っても、国際市場ではディーゼルが不足することが起こり得る。
ロシアの輸出禁止措置は供給余力の乏しさの表れ
ロシア政府は国内在庫と国内価格の安定を優先し、生産者によるディーゼル輸出の禁止を10月末まで延長した。政府間協定など一部例外は残るものの、通常の商業輸出が絞られるため、世界市場に出回る数量は減少する。ノワク副首相は国内生産が需要を上回れば部分的な輸出再開を検討するとしているが、これは輸出再開が製油所の復旧、ロシア国内の需要と在庫に左右されることを意味する。したがって、制裁緩和や輸出許可だけでは供給は直ちに正常化せず、実際に稼働できる精製設備と安全な積み出し経路が必要となる。
ディーゼル不足が原油価格を押し上げる経路
ディーゼル不足は、まずディーゼルと原油の価格差である「クラック・スプレッド」を拡大させる。採算が改善すれば、稼働可能な製油所は処理量を増やすために原油を追加購入し、軽質・低硫黄原油を中心に需要が強まることになろう。さらに、輸入国は不足分を遠隔地から調達するため、運賃、保険料、在庫確保のコストも上乗せされる。このため、ディーゼル供給不安は石油製品価格だけにとどまらず、原油の現物価格や期近物にも上昇圧力となる。一方、ロシアで精製できない原油が輸出に回れば、一部油種の供給増が原油相場を抑える可能性もあり、製品市場と原油市場の方向が一時的に乖離する可能性には注意が必要である。
短期見通し―高値圏での振れが続く
国際エネルギー機関(IEA)によれば、9月の世界のディーゼル輸出は前年同月比で日量70万バレル減少し、ロシアと中東を合わせた供給減は日量130万バレルに達した。秋の製油所定期修繕と北半球の冬季需要を前に在庫が減っているため、年末にかけては供給懸念が解消しにくい。ロシアの製油所復旧が遅れる、攻撃が再拡大する、あるいは輸出禁止が11月以降も続く場合、ブレントは再び上値を試しやすい。反対に、製油所の再稼働、輸出規制の部分解除、中東の供給・物流正常化、戦略備蓄の放出が重なれば、地政学的な上乗せ分は縮小し得る。ただし、在庫が薄いため、下落局面でも値動きは大きくなりやすい。
中期見通し―需要減より供給回復の速度が焦点 高価格と景気減速は世界の石油需要を抑えるため、中期的には原油相場の上値を制約する。IEAは2026年の世界需要が大きく減少するとみる一方、ディーゼルは輸送、農業、鉱業、発電に不可欠で価格弾力性が低いことから、需要減少だけで需給が速やかに緩和することになならない。基本シナリオは、原油価格が一直線に上昇を続けるというより、ロシアと中東の供給回復を確認するまで高値圏で推移する展開であろう。相場の転換点となるのは、①ロシアの製油所処理量とディーゼル輸出量、②輸出禁止の延長・解除、③欧米の留出油在庫、④ディーゼルのクラック・スプレッド、⑤黒海・紅海・ホルムズ海峡の輸送状況、⑥OPECプラスの増産余力といった要因が確認されることが必要となる。トランプ政権は、制裁解除としてロシア産ディーゼル油の関税撤廃を打ち出した模様だが、より重要なのは、ロシアが輸出を「約束」できるかではなく、継続的に生産し、安全に積み出せる実物供給能力を回復できるかどうかにかかってくる。