原油価格が再度急騰
先週、再び原油相場は急騰した。北海ブレント先物と米WTI先物は一時、1バレル=100ドルを超える水準で推移し、週足ではともに大幅に上昇した。ホルムズ海峡の航行を巡る外交協議による事態打開への期待が伝わると上げ幅を縮める場面もあり、原油相場は、軍事・外交のニュースに神経質なほど反応している。
原油価格上昇の最大の要因は、中東の主要な海上輸送路を巡る地政学リスクである。先週末にかけては、フーシ派が紅海沿岸で勢力を拡大し、紅海ルートの要衝であるバベルマンデブ海峡への影響力を強め、ホルムズ海峡でも米・イランの緊張が続いている。二つの重要航路が同時に不安定化すれば、原油価格に乗るリスクプレミアムは大きくなる。
市場が警戒しているのは、産油国の生産能力そのものよりも、原油を安定的に運べなくなる輸送リスクである。紅海・ホルムズ海峡で攻撃や封鎖への懸念が強まれば、タンカーの迂回や運航停止が広がり、世界のエネルギー供給は不安定化する。こうした懸念が投機的な買いも呼び込み、相場の上昇と値動きの拡大につながっている。
今後も短期的には、原油価格の上振れリスクが高いとみる。攻撃の拡大、実質的な海上輸送の制約、産油・輸出施設への被害が確認されれば、供給不安が現実味を増し、価格は再び高値を試す可能性がある。原油高が長引けば、燃料価格や輸送コストを通じて各国のインフレを押し上げ、金融政策や景気にも波及しかねない。
一方、停戦や航行安全を巡る協議が進展すれば、地政学的な上乗せ分が剥落し、利益確定売りが強まる余地もある。高値が続くほど需要減速への警戒も強まるため、一本調子の上昇は想定しにくい。目先は供給不安が相場を支える一方、外交交渉の進展や実需の鈍化が上値を抑える構図となり、高値圏で変動の大きい展開が続くだろう。
金融市場見通し 9月14日週
<米国債券市場>
雇用は底堅く、物価上昇圧力も根強い中、米国債には一段の売り圧力も
9月14日週の米国債券市場は、根強いインフレ圧力と追加利上げ観測を背景に、売り優勢の展開を予想する。先週は短中期ゾーンを中心に利回りが上昇し、2年債利回りは4.63%前後、10年債利回りは4.97%前後で週を終えた。10年債は一時4.9915%まで上昇して節目の5%に迫り、金融引き締めの長期化を織り込む動きが鮮明となった。
一方で、先週末には30年債利回りが5.35%と前日比で小幅に低下し、高い絶対利回りを意識した押し目買いもみられた。ただ、週間では利回り曲線全体が上昇しており、相場の地合いはなお弱い。2年債と10年債の利回り差は約33ベーシスポイントまで縮小し、目先の政策金利上昇を強く織り込む一方、超長期ゾーンでは将来の景気減速を意識した需要が残る構図となっている。
利回り上昇を促したのは、8月の米消費者物価指数(CPI)と雇用統計である。CPIは総合指数が前年比3.4%上昇、前月比0.4%上昇となり、コア指数も前月比0.3%上昇と、基調的な物価圧力の粘着性を示した。非農業部門雇用者数も市場予想を上回り、米景気がなお底堅いとの見方が強まった。原油高による物価押し上げ懸念も重なり、FRBが早期にハト派へ転じるとの期待は後退しやすい。
9月FOMCでの利上げは相当程度織り込まれており、焦点は政策声明、経済・金利見通し、議長会見が追加引き締めや高金利の長期化をどこまで示唆するかに移る。タカ派姿勢が強まれば2年債を中心に利回りの上振れ余地が広がり、売りが長期ゾーンへ波及する可能性がある。一方、利上げ後の政策運営に慎重な姿勢が示されれば、材料出尽くしから買い戻しが入りやすい。
市場の最大の注目点は、米10年債利回りが5%台に定着するかどうかだ。5%は住宅ローンや企業借入など幅広い資金調達コストに影響する心理的・実務的な節目であり、明確に上抜ければ金融環境は一段と引き締まる。ただし、同水準では年金や保険会社など長期投資家の需要も見込まれ、上昇の勢いを抑える可能性がある。
日本では10年国債利回りが3.00%に乗せ、国内金利の上昇もグローバルに債券需給を考えるうえで重要性を増している。日本国債の利回り上昇が定着すれば、国内投資家にとって円債の相対的な魅力が高まり、為替ヘッジ付き米国債から国内債へ資金を戻す動きが意識されやすい。米国債市場にとっては、海外投資家の需要鈍化を通じて長期金利の上昇圧力となり得る。
中東情勢と原油価格も長期金利を左右する。供給不安から原油高が続けば期待インフレが押し上げられ、10年・30年債には売り圧力がかかりやすい。通常は地政学リスクの高まりが安全資産としての米国債買いを誘うが、今回は逃避需要とインフレ再燃懸念がせめぎ合う。総じて今週は戻り売りが優勢で、2年債利回りが高止まりし、10年債利回りが5%を試す展開を基本シナリオとする。ただし、FOMCが追加利上げに慎重な姿勢を示す場合やリスク回避が急速に強まる場合には、高利回りを狙った買いと逃避買いが重なり、国債価格が反発する余地もある。
<米国株式市場>
ハイテク株が下支えも、金利上昇に警戒
9月14日週の米国株式市場は、AI関連株への根強い期待が下値を支える一方、インフレと米長期金利の上昇が上値を抑え、高値圏で神経質にもみ合う展開を予想する。先週末は原油価格の反落を受けて主要3指数がそろって反発したものの、週間では下落した。ダウ平均は前週末比840.96ドル安(1.6%安)の52,573.29ドル、S&P500は61.62ポイント安(0.8%安)の7,656.98、ナスダック総合指数は173.95ポイント安(0.7%安)の26,333.04で取引を終えた。週末の戻りによって下げ幅は縮小したが、週前半から続いた売りを埋め切れず、投資家の慎重姿勢がなお強いことを示している。
今週の最大の焦点は、8月の物価統計を受けたFRBの政策判断である。米消費者物価指数(CPI)は前年比3.4%上昇と前月から横ばいだったが、前月比では0.4%上昇し、エネルギー価格の上昇が総合指数を押し上げた。食品とエネルギーを除くコア指数も前月比0.3%上昇と市場予想を上回り、基調的なインフレ圧力が容易には収まっていないことを印象づけた。市場では、景気の底堅さを保ちながら物価上昇率が高止まりする「ノーランディング」に近い状況への警戒が再び強まっている。
金利先物市場では、15~16日のFOMCで0.25%の利上げが実施される確率が9割近くまで上昇している。利上げそのものは相当程度織り込まれており、市場の関心は政策声明、経済・金利見通し、議長会見が追加引き締めをどこまで示唆するかへ移る。今回限りの利上げとの受け止めが広がれば、イベント通過後に株式の買い戻しが進む余地がある。一方、インフレ抑制のため高金利を長期間維持する姿勢や年内の追加利上げが示されれば、米10年債利回りの5%台定着が意識され、株価収益率の高い大型ハイテク株を中心にバリュエーション調整が再開しかねない。
中東情勢と原油価格も、金融政策と企業業績の双方を通じて相場を左右する。北海ブレント原油先物は週末に約3%反落したものの、週間では9%近く上昇し、1バレル=100ドル台を維持した。原油高が長引けば、ガソリン価格や輸送費を通じて家計の実質購買力を圧迫するほか、航空、物流、一般消費財などのコスト増につながる。エネルギー株には追い風となる半面、幅広い企業の利益率を押し下げ、FRBの引き締め長期化を招く点では指数全体にマイナスだ。外交協議の進展などで原油が落ち着けば株価の支援材料となるが、供給不安が再燃すれば、株安・金利高が同時進行する場面も想定しておきたい。
一方、AI投資を巡る構造的な成長期待は引き続き相場の支えとなる。AI向けサーバーを手掛けるデル・テクノロジーズが最高値を更新し、オラクルの好決算を手掛かりにヒューレット・パッカード・エンタープライズやHPにも物色が広がった。半導体だけでなく、サーバー、ネットワーク、クラウド、電力設備へと投資テーマが波及していることは、ナスダックの下値を支える材料である。ただし、好材料を発表したオラクル自身が下落したように、高い成長期待を既に織り込んだ銘柄では、決算が良好でも利益確定売りが出やすい。今後は「AI関連」という括りだけで一様に買われるのではなく、受注残、設備投資負担、利益率、キャッシュフローを見極める選別相場が一段と鮮明になろう。
今週は、FOMCを通過するまで積極的に上値を追いにくく、主要指数は日々の金利と原油価格に振らされる展開となりそうだ。米10年債利回りが5%前後で高止まりすれば、株式の相対的な割高感が意識され、特に高PERの成長株や資金調達負担の大きい小型株には逆風となる。加えて、先週は米大型株ファンドから大規模な資金流出が観測されており、イベント前後の利益確定売りにも注意が必要である。基本シナリオは、AI関連株の押し目買いが指数を支えながらも、金利高への警戒で上値が限定されるもみ合いだ。FOMCが追加利上げに慎重な姿勢を示し、原油価格が落ち着けば反発余地が広がる一方、タカ派姿勢と原油高が重なれば、S&P500とナスダックを中心に調整が深まる可能性に注意したい。
<為替市場>
インフレ警戒感強まり、米ドルは横ばいの動き
今週の為替市場は、米国の金融政策と日銀の政策判断、中東情勢に伴う原油高が交錯し、主要通貨が方向感を探る展開となりそうだ。先週のドルは、米物価上昇圧力の強さを背景に一時買われたものの、週を通じてはほぼ横ばい。8月の米消費者物価指数(CPI)が前月比0.4%上昇と7月の0.1%から加速し、9月FOMCでの追加利上げ観測が強まった一方、地政学リスクの高まりが投資家心理を不安定にし、ドルの上値を抑えた。
今週の最大の焦点は、インフレ懸念が米金利をどこまで押し上げるかだ。米短期金融市場はFOMCでの0.25%幅の利上げを約9割織り込んでおり、政策変更そのものより、声明や記者会見が今後の追加引き締めをどの程度示唆するかが重要になる。タカ派姿勢が鮮明になればドル買いが優勢となる一方、材料出尽くし感や先行きへの慎重姿勢が示されれば、利益確定のドル売りが出やすい。
主要通貨では、ユーロドルが1ユーロ=1.15950ドルまで小幅に下落し、ドル/スイスフランは1ドル=0.817スイスフランと3週連続で上昇した。米金利の高止まりはドルを支える一方、欧州通貨には相対的な重しとなりやすい。ただ、中東情勢が一段と緊迫すれば、安全資産とされるスイスフランへの需要が強まり、ドル高が一方向に進みにくくなる可能性もある。
ドル指数は99.12と横ばい圏にあり、週間では0.16%安と2週連続の下落となった。底堅い米景気と利上げ観測はドルの下支え要因だが、原油高が世界景気への不透明感を強めれば、リスク回避の資金がドルだけでなく円やスイスフランにも向かう。今週もドルの基調は崩れにくいものの、上値を追うには新たな材料が必要だろう。
ドル円は2週連続で下落し、1ドル=153.69円で取引を終えた。日銀は今週の金融政策決定会合で利上げに踏み切るとの見方が強く、市場では政策変更をほぼ織り込んでいる。このため、実際に利上げが決まっても円買いの反応は限定される可能性があり、焦点は追加利上げの道筋や物価・賃金に対する日銀の評価へ移る。
円高が続くかどうかは、日米金利差が実際に縮小へ向かうかにかかっている。8月の米雇用統計では雇用者数の伸びが市場予想を上回り、米景気の底堅さが確認された。賃金上昇率に鈍化の兆しはあるものの、FRBが早期に大幅な利下げへ転じるとの見方は構築しにくい。米長期金利の低下余地が限られるなら、ドル円の下値も次第に堅くなりやすい。
もっとも、日銀が市場予想を上回るタカ派姿勢を示せば、日米金利差の縮小を見込んだ円買いが再び強まり、ドル円は下値を試す展開となろう。反対に、日銀が今後の追加利上げに慎重な姿勢を示し、米国ではインフレ警戒から金利先高観が強まれば、円高は一時的な調整にとどまり、ドル円が反発する余地が広がる。
総じて9月14日週は、ドルの底堅さと円の政策期待がぶつかり合い、値動きの振れやすい一週間となりそうだ。基本シナリオは、米金利の高止まりを背景にドルが下支えされる一方、日銀の政策正常化観測がドル円の上値を抑える展開である。FOMCと日銀会合のメッセージ、中東情勢と原油価格の推移を見極めながら、先週のドル安・円高が新たな基調へ発展するのか、それとも一時的な調整に終わるのかを探る局面となろう。
<金相場>
金利上昇が重し、地政学リスクが下支え
先週の金相場は軟調に推移した。金現物は1オンス=4,363.01ドルで週末の取引を終え、前週末の4,429.95ドルから66.94ドル安(1.5%安)。米金先物の清算値も4,408.90ドルと、前週末の4,476.60ドルから67.70ドル安(1.5%安)となった。堅調な米経済指標を受けた金利上昇が、安全資産需要を上回る売り材料となった。
今週は、米金利の高止まりとドルの底堅さが上値を抑える一方、地政学リスクや通貨価値の低下懸念が下値を支える、方向感の定まりにくい展開を予想する。金は利息を生まないため、追加利上げ観測や長期金利の上昇局面では相対的な投資妙味が薄れやすい。
先週発表された8月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想を大きく上回り、FRBによる追加利上げや高金利政策の長期化が意識された。発表後、金現物は一時2%超下落して4,364.99ドルまで下げた。今週のFOMCでタカ派姿勢が示され、米実質金利が一段と上昇すれば、金には引き続き売り圧力がかかりやすい。
一方、金相場を支える材料も残る。米財務省による長期国債の買い戻し拡大を受け、市場では通貨価値の目減り、いわゆるデベースメントへの警戒がくすぶる。さらに、米国とイランの対立長期化やホルムズ海峡周辺の緊張は、安全資産としての金需要を下支えしやすい。原油高を通じてインフレ懸念が再燃すれば、インフレヘッジ目的の買いも見込まれる。
今週はFOMCの政策声明、経済・金利見通し、議長会見が最大の焦点となる。追加引き締めや高金利の長期化が強く示唆されれば、4,300ドル台前半を試す可能性がある。反対に、利上げ後の政策運営に慎重な姿勢が示されるか、中東情勢が一段と緊迫すれば、安全資産需要から4,400ドル台を回復する余地がある。基本シナリオは、金利上昇が上値を抑え、地政学リスクとデベースメント懸念が下値を支える、高値圏で変動の大きい展開である。