初値は170ドルで公募価格を14%上回る
7月10日、韓国の半導体大手SKハイニックスが、米ナスダック市場で米国預託証券(ADR)の取引を開始した。ADRの初値は170ドルと、公募価格の149ドルを14%上回った。公募価格149ドルは、ソウル市場での過去3営業日の平均株価に2.7%のプレミアムを上乗せした水準である。ADR10単位が普通株1株に相当する。
人工知能(AI)ブームを背景に、高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとする先端半導体への需要が一段と高まるとの見通しの中、半導体製造メーカーに対する株式市場の期待が強いことを示した。
期待を集めている背景は、AIサーバーやデータセンター向けに不可欠となるHBMの需要が拡大すると見込まれているからである。SKハイニックスはこの分野で競争力を持ち、エヌビディアなど主要顧客の投資拡大も追い風に、収益成長とバリュエーションの上方修正が進むとの見方がある。一方で、半導体株は既に目覚ましい上昇をしており、AI関連支出が今後鈍化するとの観測もある。SKハイニックスの株価も、足元では2週間前の最高値から約25%反落した。ただ、前年比で見れば約630%高い水準にある。競合する米マイクロン・テクノロジーの株価も過去12カ月で大きく上昇しており、SKハイニックスの米ナスダック上場により、両社のバリュエーション格差が縮小するとの指摘もある。
公募による調達額は約265億ドルで、同社は調達資金を新工場や製造装置への投資に充て、AI向けメモリーの供給能力を拡大する方針だ。半導体製造メーカーには、チップの供給だけでなく、データセンター、電力、先端パッケージングを含むAIインフラ全体を支援する役割が期待されている。また、SKグループの崔泰源会長は、韓国国外で5ギガワット(GW)規模のAIデータセンターの構築を目指しており、米国でのさらなる投資にも前向きな姿勢を示している。
ただ、サムスン電子やマイクロンがHBMの増産で激しい競争を展開する中、SKハイニックスが技術優位と価格決定力を維持できるかは焦点となる。また、メモリー需要は今後10年間、同社の供給能力を上回る状態が続くとの予想もある。これはメーカーにとって高収益を得る機会である一方、競争力のある製造コストを維持できるのかという問題もある。顧客にとっては調達難や価格上昇のリスクを意味し、需要の伸びを抑制することも考えられる。SKハイニックスの郭魯正最高経営責任者(CEO)も、世界のメモリー業界は2027年に過去最悪の供給不足に陥るとの見通しを示した。同社がどのように生産能力を確保し、サプライチェーンの安定化を進められるかは、焦点となろう。加えて、巨額投資には電力・水資源の制約、建設コストの上振れ、地政学リスク、補助金政策の変化といった不確実性も伴う。
高帯域幅メモリー(HBM)市場で優位性を誇るSKハイニックスだが、予想株価収益率(PER)は約5.8倍と、マイクロンの約7.0倍を下回っている。米上場による認知度向上と投資家層の拡大は評価見直しの契機になり得るが、AI投資が想定より減速した場合や競合の供給拡大が進んだ場合には、半導体市況が幾度となく経験してきた循環的な調整圧力にさらされる可能性もあろう。