サプライズとなった6月米国雇用統計
7月2日に米労働省が発表した6月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比5.7万人と直近4カ月で最低の伸びにとどまりまった。前月比10万人程度の増加を予想していた市場参加者にとっては、サプライズとなった。さらに4月分で▲3.1万人、5月分も▲4.3万人の合計7.4万人の雇用者数が下方修正され、「弱いマクロ指標」と受け止められた。
一方、失業率は前月の4.3%から4.2%とこちらも予想に反して0.1%改善した。ただ、この低下には構造的な要因が指摘されている。数字面は失業率改善と読めるものの、実態は労働参加率が61.5%と前月の62.0%から急低下しており、労働力人口が前月から72万人も減少して、求職活動を諦めた人が増えたことが主因と推定される。これには、移民抑制策による労働者数への影響や高齢化に伴うリタイアも要因として加わるだろう。
平均時給は前月比 +0.3% / 前年同月比 +3.5%で事前予想とほぼ一致していた。
業種別では、北米で開催中のサッカーワールドカップによる経済効果が期待されたが、これまで雇用を牽引してきた「娯楽・宿泊(レジャー・接客)」部門で、6月は6.1万人減と大幅な減少が見られた。旅行や外食も減少しており、低所得層の購買力低下が懸念される。一方で、「教育・医療」や、活発なデータセンター建設需要を背景とする「建設業」は従来の堅調さを維持した。
FRBの金融政策に与える影響は、先月来ウォーシュFRB議長のもとで警戒され始めたタカ派スタンスへの警戒感や早期利上げ観測を後退させる指標と受け止められるだろう。少なくとも、FRBが今年9月など、早期の追加利上げを急ぐ必要性は薄れたとの見方が拡大するだろう。
6月のOPEC原油供給量は急回復
ロイターの報道によると、今年6月に石油輸出国機構(OPEC)加盟国11カ国が生産した原油量は、前月比で日量330万バレル増加し、日量1,943万バレルに達した。OPEC加盟11カ国のうち湾岸加盟国が原油の生産を再開し始めたことが理由である。5月は、イラン戦争やホルムズ海峡の事実上の封鎖により、供給が停止し、2020年のパンデミックにより需要が崩壊した際の水準を下回っており、供給量は過去20年間で最も少なかった。なお、この計算からは、5月1日付でOPECを脱退したアラブ首長国連邦(UAE)は除外されている。
原油の増産幅が最も大きかったのはクウェートとイランだった。米国がイランの港湾に出入りする船舶を留め置いていたことで、イランは減産を強いられていたが、和平合意により、封鎖が解除されたことが背景にある。また、サウジアラビアとイラクも大幅に原油生産を拡大した。イランとの戦争の影響を受けないと見られていたナイジェリアやリビアも増産に転じた。
先週6月30日時点では、北海ブレント原油は1バレル=75.02ドルに下落し、週末の7月2日には1バレル=70.64ドルまで低下した。WTI原油は1バレル=67.72ドルまで下げており、前月比では約24〜27%もの大幅な下落を記録した。大幅な原油安により、世界的なインフレ圧力への懸念が後退することになれば、世界の金融市場やマクロ経済にとっては大きなポジティブ材料となるだろう。また日本にとっても、コスト低下により、コストプッシュ型のインフレ圧力が軽減される可能性が高まるだろう。原油安の動きは、企業の先行き不透明感を緩和させ、国内景気のマインド改善を後押しする。7月1日に発表された日銀の6月短観では、そうした良い流れを先取りして、大企業・製造業の業況判断DIが「プラス22」と約8年ぶりの高水準を記録している。
一方でこの価格下落トレンドが続くかというとやや疑わしい。まず、あまりに価格が低下するとOPECプラス諸国が、原油増産するインセンティブを失うことも事実である。また、備蓄放出などにより枯渇した在庫を水準訂正するために、来年に向けては需要が下支えされると考えられ、市場は再均衡に向かう可能性が高い。地政学的リスクへの警戒感はまだ続くであろうし、輸送タンカーの数が限られていることや、新たに積み荷を載せるためにホルムズ海峡に入るタンカーが回復するロジスティクスも、不透明であるなど、正常化には時間がかかる。2026年後半の原油価格は1バレル=80ドルを大きく下回ることは難しいのではないか。
スターマー英首相が辞任
6月22日にスターマー英首相は与党・労働党の党首および首相を辞任する意向を表明した。6月18日に行われた下院補欠選挙でアンディ・バーナム前マンチェスター市長が大差で当選して国政に復帰したことで、労働党内での高い人気を持つバーナム待望論が圧倒的となり、スターマー首相は留任を断念に追い込まれた。2024年7月総選挙で、政権を奪取し首相に就任したものの、約2年で退陣することとなった。
もともと支持基盤が盤石とは言えず、不人気ぶりも目立ったが、5月に行われた主要地方議会選挙で、労働党が惨敗し、右派ポピュリスト政党などの台頭を許したことや、党内の対立が激しくなり、閣僚や政務次官が次々と辞任・離反するなど、政権の求心力は失われ、政権維持は困難になった。
英国は議院内閣制であるため、下院で単独過半数を握る労働党の新党首に選ばれた人物は、ほぼ間違いなく次期首相に就任することになる。7月16日には、労働党・党首選の候補者が出揃い、議会が夏季休会から再開する9月1日までには、新首相が誕生する見通しである。
今のところは、バーナム氏が本命視されており、他に目立った対立候補も上がっていない。議員の81名の推薦が必要となるため、立候補者がバーナム氏に一本化されれば、7月中旬に新首相が誕生する可能性もあろう。
金融市場や影響は、政局の不透明感から2025年4月以降続いていたポンド高トレンドはポンド安に転じて、ポンドが対米ドルでの年初来安値水準まで下落する場面もあった。既に、スターマー首相退陣は一定程度織り込まれており、新首相の手腕・政策に焦点が当たることになろう。
金融市場見通し 7月6日週
<米国債券>
7月2日に発表された米雇用統計では、非農業部門雇用者数が5.7万人増加と事前予想の約11万人増加を大幅に下回った。 この下振れにより、早期利上げ観測は後退し、ウォーシュFRB議長が示していたインフレ抑制へのタカ派姿勢に対する警戒感も緩和した。このため、政策金利に敏感な短中期国債は利回りが低下し、2年米国債利回りは4.14%に低下した。しかし、10年米国債利回りは4.49%と低下は見られず、2年債と10年債の利回り差は35.0Bpsに拡大した。
こうしたイールドカーブの「スティープ化(順イールド化)」が進行している背景は、「利上げ警戒感が緩和」する一方で、「長期的な財政・インフレ懸念」は根強く残っていることがあるだろう。財政リスクとインフレ圧力への参加者の警戒感はそう簡単には拭えないことを示しているのではないか。財政拡張懸念を背景とした金利の上昇は、欧州や日本にも波及して、主要国の長期金利が軒並み急上昇しており、巡り巡って米国長期債の利回り低下を阻む要因にもなっている。米国のインフレ指標を見ても、CPIが4.2%、コアPCEも3.4%とFRB目標である2%を大きく上回っている状況には変化が見られない。
今週、最大の注目指標は、7月6日発表の米ISM非製造業景況指数(6月)でサービス業の景況感が底堅さを維持しているかどうかが確認される。また、7月8日にはFOMC議事録が公開され、FRB高官らがインフレ高止まりや景気減速のリスクをどう評価していたのかが注目されるだろう。また、今週は総額1,190億ドルに達する大量の米国債入札も行われる。7日に3年債入札が580億ドル、8日に10年債入札が390億ドル、9日に30年債入札が220億ドル予定されている。これだけの巨額入札を債券市場が順調に消化できるか試されることになる。
<米国株式市場>
先週発表された6月米雇用統計が景気減速を示すサプライズな内容となったことで、FRBによる追加利上げへの警戒感は、かなり緩和された感がある。金利高止まりが足かせとなっていたハイテク株や成長株には、買いが先行しやすいだろう。ただ、雇用減速となれば、スタグフレーション懸念も台頭する可能性は否定できない。そういう点では、7月6日発表予定の米ISM非製造業景況指数(6月)は、米国サービス業の景況感が示されるため、注意を払う必要があろう。
また、第二四半期の企業決算発表も今週末の7月10日(金)から、JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴ、シティグループなどの米金融大手を皮切りに、スタートする。これまで以上に、高バリュエーションの株価上昇が続いてきたが、こうした動きを正当化できるだけの力強い「業績見通し」を企業が決算で示せるかは焦点となろう。
市場のセクター別では、AIブームに支えられた半導体やビッグテック(マグニフィセント・セブンなど)の動きに注意が必要であろう。
<為替市場>
先週末、7月2日に発表された6月米雇用統計の内容から米FRBによる早期の追加利上げ観測は後退した。これを受けて、米金利は中短期を中心に低下したため、ドル買い圧力が後退した。米雇用統計を受けて、ドル高の流れが一服しており、今週は米金利の動向が気になるところである。
また、為替市場では、39年ぶりの1ドル=162円台という歴史的な円安水準をつけたドル円の動きが注目される。日米金利差縮小によりドル買いの意欲が薄れたところに、日本政府・日銀が為替介入すれば相応に効果は上がるのではないか。その場合、ドル安・円高方向への調整がどこまで進むかも焦点となる。
ただ、財政リスクへの懸念や巨額入札の応札状況などを理由に米長期金利が下がりにくい状況が続くとなれば、介入効果は一時的にとどまり、再び円安圧力に晒される展開もあり得る。
今週は日米欧の経済指標や政治イベントが為替変動の材料となる。7月6日の米ISM非製造業景況指数(6月)は、弱ければドル安・円高、強ければドル高・円安に振れやすい。7月8日公表のFOMC議事録でFRBのタカ派姿勢が確認されれば、ドルの下支え要因となる。
欧州通貨では、フランス下院選後の政局流動化やスターマー英首相辞任による英国政治の混迷を受け、ユーロやポンドには売り圧力がかかりやすい。相対的にドルや円が選好されるリスク回避の動きもあり得る。