米中首脳会談は、中国政府の周到な準備が奏功
5月14日と15日の二日間にわたって、トランプ米大統領と習近平国家主席が会談した。中国において、通常、政治や外交の場となる人民大会堂ではなく、今回の会談が紫禁城に隣接する中南海で行われたことは、中国がそれだけ、今回の階段を重要視し、特別な位置づけをしていたことを示す。習氏は、この会場を選んだ理由について、2017年にマール・ア・ラーゴで受けた歓待への返礼だと説明した。また、中南海の庭園に咲くバラの種をトランプ氏に贈ることを明らかにした。トランプ大統領も、友好的な姿勢を維持し、習氏は「本当の友人」となり、両国関係は「非常に強固」な関係にあると述べた。
合意の内容は、まだ明らかにはなっていない。トランプ大統領は、両国が結んだ「素晴らしい通商合意」を「多くの良い成果」の一つとして強調した。トランプ大統領によれば、中国側がボーイング社製旅客機200機を購入するとの言及があり、米当局者の中にも、中国が大規模に米国産農産物を購入すると触れたものもある。『ディール』が成立したことで一定の成果を強調するいつもの姿勢である。
習国家主席は、変化と混乱が交錯し、非常な困難に直面する国際情勢下、トランプ大統領とともに、米中関係という大きな船の進む方向をしっかり舵取りすることで、2026年を米中関係が過去を受け継ぎ未来を切り開く歴史的かつ象徴的な年にしたいと述べた。また、今後3年間、さらにはより長期にわたる米中関係に戦略的指針を提供する「米中建設的戦略安定関係」の構築を、両国関係の新たな位置付けとすることで両者は一致したとコメントした。
さらに、習主席は、米中経済貿易関係の本質は互恵・ウィンウィンであり、相違や摩擦に直面した際には、平等な協議こそが唯一の正しい選択であると指摘した。加えて、両国は両国首脳間で合意した重要な共通認識を実行に移し、政治・外交および両軍間の意思疎通ルートをさらに有効に活用すべきと指摘した上で、経済・貿易、衛生、農業、観光、文化、法執行などの分野における交流と協力を拡大すべきと述べた。つまり、中国政府が主張するのは米国政府との「対等な」関係であり、今回の首脳会談を通じて、それを世界に訴えることに徹した感がある。
ただし、習主席は、台湾問題にも触れ、この問題を適切に処理すれば両国関係は安定を保つことができるが、適切に処理できなければ両国は衝突、さらには対立に至り、両国関係全体を極めて危険な状況へと押しやることになると指摘した。これは、中国側が米国に対して、台湾問題に関する姿勢を正しく維持せよとの要求である。米国側が台湾問題すなわち中国政府のレッドラインに配慮し、誤った行動をしない限りにおいて、関係は安定し得るということを示している。
世界が注目していたイラン問題に関しては、期待外れの結果となった感が強い。トランプ大統領は、戦争終結とホルムズ海峡の開放維持を巡り、米中両国は「同じ考え」を持っていると述べた。中国の王外相も、2日目の協議開始前にホルムズ海峡の再開放を呼びかけた。しかし、具体的に、イラン問題で進展があったことは聞こえてこない。問題解決への糸口を期待していた原油相場には、残念な結果となっただろう。
金融市場見通し 5月17日週
<米国債券>
先週の米国債相場は結果としては大幅に下落した(利回りは大幅上昇した)。米国物価指標でインフレ圧力が増大していることを確認したほか、米中首脳会談でイラン戦争に何らかの歯止めがかかるあるいは和平への手がかりがつかめるとの期待が肩透かしに終わったことで、エネルギー危機が物価を一段と押し上げ、主要中央銀行が利上げを余儀なくされるようになるとの見方が強まった。このため、主要国債は世界的売りの流れを受けて大幅に下落した。
米国債利回りは全年限で上昇した。特に、インフレ加速の影響を最も受けやすい長期債を中心に利回りは大幅に上がり、30年債利回りは5.12%と2023年以来の高水準に近づいた。10年米国債利回りは4.60%に、2年米国債利回りは4.08%に水準を切り上げた。週足ベースでは、トランプ大統領が大規模な関税計画を発表した2025年4月以来の上昇幅を記録した。日本国債や英国債の利回りも切り上がり、30年日本国債利回りは、1999年の発行開始以降で初めて4%に達した。
債券は不安定な動きになってきており、金融市場は米FRBの動きに加えて、財政状況の方向感を決めるとして米国議会の動きにも注目するようになってきている。
<米国株式市場>
先週の米国株式市場は前週と同水準で引けた。米国とイランの和平への期待は強かったが、米中首脳会談は目立った成果なく終了したことで、WTI原油相場では1バレル=105ドル台まで上昇、米国債利回りは全年限で大幅に上昇した。これを受けて15日金曜日の株式市場では、主要銘柄に売りが先行、主要株価指数も反落した。S&P500指数は14日木曜日に更新した最高値から1%余り下落し7,408.50、イラン戦争開始後の安値圏からの株価上昇をけん引したハイテク株も売られ、ナスダック総合指数も26,225.14まで値を下げて取引を終えた。ダウ平均は49,526.17、
イラン戦争の和平が見通せない中、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は続きエネルギー供給混乱の長期化は避けられないとの見方が強まっている。それは、インフレを加速させ、戦争に起因する物価圧力が高まることが懸念される。
もちろん地政学的な状況の改善があれば株式相場の支援材料とはなるだろうものの、インフレの沈静化には相当の時間を要するとの懸念が強まっている。
債券利回りの上昇は世界的に拡大しており、株式市場の投資家心理も冷やしている。インフレ懸念や中央銀行による利上げ観測の高まりに加え、主要各国がエネルギー価格上昇の影響を緩和するために財政措置を採ればとるほど政府債務への懸念が強まりかねない。
10年米国債利回りは先週4.60%まで達した。仮に債券利回りが5%に達すると、株価収益率〈PER〉との比較から、米株への見通しは弱気に転じるとの見方も出ている。
<為替市場>
先週の為替市場では米ドルが大幅に反発した。ドル指数は週を通じて5営業日続伸し、週足では1.4%上昇して99.27で取引を終えた。中東からの原油供給の早期正常化への期待が後退し、ドル金利の上昇が大きくなる中、米ドルは買われた。
ドル円相場は、日本の通貨当局が160円を超える円安を不快に感じており、その水準への再接近をけん制する介入に対する警戒感が強く、ドルが急騰するとドルを買い進む動きが急速にしぼんで、反落する展開が繰り返された。12日も14日にもニューヨークでの取引時間で神経質な動きがみられた。今週も、ドル高の流れの中、160円に近付くと高値警戒感から神経質な動きとなろう。
欧州通貨では英ポンドが対ドルで5日続落となった。週ベースでは約2%下落し、2024年11月以来の大幅安となった。先週の地方選での大敗を受け、英国の与党・労働党内でスターマー首相に対する退陣圧力が強まっていることが背景にある。ポンドは、当面下げ基調を維持するのではないか?
<原油>
米中首脳会談は終了したが、ホルムズ海峡の航行正常化については何ら進展がなかったことから、世界のエネルギー供給混乱がさらに深刻化するとの懸念が再燃した。ニューヨーク原油相場は急伸し、WTI原油先物6月限は1バレル=105.42ドルまで上昇して取引を終えた。北海ブレント先物7月限も1バレル=109.26ドルへと水準を切り上げた。
ホルムズ海峡近くで船舶が拿捕されたと報じられたり、中東各国は戦闘再開の可能性に神経を尖らせたりしているなど、ペルシャ湾地域での緊張はむしろ高まっている。同海峡を通じた輸送量は再び減少しており、仲介役も不在のまま、たなざらしの印象である。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、月報で「世界の原油在庫がすでに記録的なペースで取り崩されている」と指摘。紛争が来月終結したとしても、市場は10月まで「深刻な供給不足」の状態が続くと分析した。中国がイランに圧力をかけない限り、米国とイスラエルはイランに対する措置を強化する可能性が高い。そうなれば短期的には原油価格にプラスだ」と述べた。
<金>
金相場は先週大幅安となった。イラン戦争に起因するインフレの加速で、世界的に利上げ観測が強まり、経済成長への足かせとなるとの観測が広がった。金現物価格は1オンス=4520ドルを下回り、週足3%余り下落した。為替相場で米ドルが上昇したことも、ドル建てで取引される商品相場全般を圧迫した。
ホルムズ海峡の事実上封鎖が続き、世界のエネルギー供給は危機にさらされている。戦争終結に向けた動きは見えず、エネルギー危機は長期化し、インフレ懸念も燻ったままである。日米の物価統計は、いずれもインフレ圧力の強まりを示した。
インフレ懸念と債券利回りの上昇、為替でのドル高は、短期的には金相場を圧迫する材料とろう。