国際金融ストラテジスト長谷川建一が解説する金融市場レポート
今週は主要中銀の政策決定会合相次ぐ
米国、日本、カナダ、英国、欧州と主要7カ国(G7)のでは、今週、中央銀行の政策決定会合が相次いで予定されている。今週の会合では、各中銀は、それぞれ金利を据え置くと予想している。背景には、各中銀がイラン戦争による影響を警戒する姿勢がある。中東受精の緊迫化により、エネルギー高がインフレを再燃させることに神経を尖らさざるを得ない状況が続くだろう。各中銀ともに、国内・域内の動向を見極める姿勢を維持する一方で、世界のエネルギー供給の要衝であるホルムズ海峡の情勢を、今後の金融政策の行方を左右する材料として注目していくことになろう。
4月28日には、先ず日本銀行が政策決定会合を開催する。原油の供給を中東に依存する割合が高い日本は、ホルムズ海峡の航行見通しが見えないことで、経済・物価への影響が非常に不透明な状況に陥っているが、経済が自律的に成長加速する状況にはなく、タカ派の金融政策は採用できないだろう。政策金利は現行のターゲットである0.75%程度のままに据え置かれる公算が大きい。
4月29日には、カナダ銀行政策委員会と米FOMCが開催される。いずれも、新たなアクションを打ち出すとの判断には至らず、様子見ということで金融政策を現行通り維持するだろう。
今週発表予定の米国経済指標では、昨年後半に実施された政府閉鎖に伴う成長率落ち込みからの反動もあり、経済は第1四半期に持ち直した可能性が考えられる。30日には、1-3月の国内総生産(GDP・速報値)が発表されるが、前期比年率2.2%増加と持ち直しが見込まれている。これまでは、旺盛な設備投資が成長率下支え要因となってきたが、個人消費の伸びは、消費者信頼感指数が示すように緩やかな低下トレンドにあると見るべきだろう。インフレ調整後の実質個人消費支出(PCE)は、3月にやや回復すると予想されている。また、PCE総合価格指数は前年同月比で23年以来の高い伸びとなる可能性がある。食品とエネルギーを除くコア価格指数も、前年同月比の伸びが加速した公算が大きい。FOMC開催後には、パウエル議長の会見が予定されているが、次期議長へのバトンを引き渡すにあたり、どのようなメッセージを残していくかも注目したい。
イングランド銀行と欧州中央銀行も、30日の理事会では、インフレに対して警戒感をメ打ち出しながらも、政策変更には踏み込まないと予想する。
人工知能が変化させる国別時価総額の激変
人工知能(AI)の普及を背景に、半導体を中心とするハイテク企業の存在感が一段と高まっている。そして、ハイテク企業群の株価上昇が、世界の株式市場に大きな地殻変動をひき起こしている。台湾上場株式の時価総額は、先週、約4.3兆ドルに達して英国を上回った。同様に、韓国上場株も上昇を続け、欧州の国別市場に迫ったとされる。台湾と韓国の市場規模が急速に拡大し、
けん引役は、AIに不可欠な半導体を供給する台湾積体電路製造(TSMC)と、韓国のサムスン電子、SKハイニックスなどが挙げられる。これらのAI関連銘柄の上昇が市場全体を押し上げている。台湾や韓国では、輸出受注が大きく伸びるという実体面の追い風を受ける一方で、欧州株式市場では金融株の比重が高く、テクノロジーと非テクノロジーの構造差が、時価総額の伸びの差として表れる傾向にある。
関税やイラン戦争の影響への懸念がある中でも、AIの発展と普及に伴い、アジア圏経済は世界経済における中核的地位を固めている。成長著しい半導体業種は現在も好調で、台湾の3月の輸出受注は16年ぶりの高い伸びを記録し、韓国の輸出も2カ月連続で40%超の大幅に増加した。
投資家もこうした役割を強く認識しつつあり、TSMCやサムスン電子、SKハイニックスはAI分野を主導する米エヌビディアの主要供給企業として知られる。TSMC株は今年40%余り上昇し、韓国の2社もそれぞれ80%を超える上げを記録している。
TSMCの時価総額は1兆8000億ドルと世界有数の規模に達し、サムスン電子とSKハイニックスを合わせると1兆5000億ドルに上る。欧州最大の企業である半導体製造装置メーカーのASMLホールディングをいずれも上回る。実際、ストックス欧州600指数に含まれるテクノロジー株全体の時価総額は約1兆4000億ドルにとどまる。
金融市場見通し 4月27日週
<米国株式市場>
先週の米国株式市場は上昇を継続した。米国とイランの和平協議が再開されるとの期待が強まった他、インテルが市場予想を上回る売上高見通しを示したことが市場参加者のリスクテイク心理を支えた。また、週末には、米司法省がFRB本部改修を巡る捜査を打ち切ると報じられ、トランプ米大統領が次期FRB議長に指名したケビン・ウォーシュ氏の承認に向けて、上院での審議が再開されることも材料視され、ハイテク株を中心に買いが優勢となった。ナスダック総合指数は上昇を継続し、ナスダック100指数も最高値を更新、S&P500指数も週足では連続高となり、上昇基調が続いた。
週末の報道でも、米国がイランとの協議に向けてパキスタンへ特使を派遣する予定が伝えられ、協議実現への期待が相場を下支えした。投資家の関心は地政学リスクに加え、米国企業の決算と金融政策が緩和に向けて動き出すことへの期待が強まった。
半導体株を含むハイテク株は堅調で、フィラデルフィア半導体株指数は上昇が続いた。個別ではAI関連の投資・提携の動きも材料視されやすいだろう。また、今週は「マグニフィセント・セブン」の決算を公表され始める。業績見通しが次の相場の焦点となろう。
<米国債券>
米国債相場は、中東情勢を巡る不透明感が続く一方で、米国とイランの和平協議が週末にも行われる可能性があるとの報道を受け、事態沈静化への期待が広がって、債券利回りは低下した。加えて、ワシントンのピロ連邦検事が、パウエルFRB議長を巡る司法省の捜査を終了すると明らかにしたことも、利下げ期待の増幅から債券買いを後押しした。
報道では、イランのアラグチ外相がパキスタンの首都イスラマバードに入り、米国との協議再開に向けた提案について協議する見通しが伝えられた。米国側もウィトコフ中東担当特使とジャレッド・クシュナー氏が同地を訪問する予定とのことである。
原油価格が下落したことも米国債買いの流れを作り、指標である10年米国債利回りは低下に転じた。ただ、週足では利回りは上昇しており、債券の値動きは不安定だったといえよう。10年米国債利回りは4.30%、30年米国債利回りは4.91%、2年米国債利回りは、3.78%で取引を終えた。金融政策に敏感な2年米国債利回りは低下した。
債券市場は、新たに議長となるケビン・ウォーシュ氏への移行を織り込みつつあるが、ある程度ハト派的な姿勢を打ち出すとの見方が前提になっている。相場のは限定される可能性があると述べた。ただ、ウォーシュ氏の発言は今のところ慎重にバランスを取っており、データを踏まえたものである。議長に就任すれば、データを踏まえて必要な対応を取り、周囲の要求に流されることはないとの見方を獲得することに成功しつつある。
また、今後はパウエル議長の去就に焦点が移る。来週の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でこの問題について質問を受ける可能性が高い。
<為替市場>
米ドルは下落を継続した。ドル指数は週間では0.3%程度上昇し98.55で取引を終えた。ユーロドルは1ユーロ=1.1714ドルとユーロが小幅下落した。ドル円は1ドル=159.4円と日本円が持ち直した。英ポンド・ドルは1ポンド=1.3523ドル。ビットコインは小幅安の1BTC=77,558ドルで取引を終えた。
米司法省がパウエルFRB議長に対する捜査を終了したことを公表し、イランのアラグチ外相が、和平協議再開に向けた対米案について協議を行うためパキスタンの首都イスラマバードを訪問する見通しとなったこともドルの下押し材料となった。ホワイトハウスのレビット報道官は、イランとの協議を行うため、ウィットコフ中東担当特使とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が25日朝にイスラマバードを訪問すると明らかにした。
米ワシントンのピロ連邦検事は、パウエルFRB議長の下で行われたFRB本部改修工事の費用超過に関連する司法省の捜査を終了すると発表した。これを受け、トランプ大統領が次期議長に指名したケビン・ウォーシュ氏の承認に向けた大きな障害が取り除かれた。ただ、中東情勢の先行きが依然として不透明なことから、多くのトレーダーは大きなポジションを取ることに消極的で、市場は概ねレンジ内の動きにとどまっている。
フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、FRBが年内に利下げを実施する確率を4割程度織り込んだ。
今週は、主要中銀の金融政策決定会合にも注目すべきだろう。FRB、日銀、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中銀)などが政策決定のための会合を開催する予定である。ただ、いずれの中央銀行も金融政策を変更することはないだろう。円安は気がかりだが、日本銀行は金融政策決定会合を開くものの、政策金利は0.75%程度に据え置く公算が大きい。
<原油>
原油相場は、米国とイランの和平協議が週末にも行われるとの観測を受けて地政学リスクが後退し下落した。WTI先物は一時前日比3.3%安となった。
<金>
金相場は、イラン戦争開始時点で投資家が現金確保のために金を大量に売却したことがきっかけで、高値から約10%下落した水準にあり、ここ数週間は、レンジ相場を形成している。先週は、小幅反発に転じた。金現物価格は1オンス=4720.59ドル、金先物6月限は1オンス=4,740.90ドルで取引を終えた。
米国とイランが和平協議を再開し、停戦に至るとの期待が高まった。また、司法省がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を巡る捜査を打ち切ったことを受け、政策金利の引き下げに対する期待も強まった。
2月末のイラン戦争開始以降、エネルギー価格は上昇したが、これがインフレ圧力として、長期化するとの懸念は根強い。インフレ圧力が続けば、FRBをはじめとする中央銀行は金利を長期にわたり高水準で維持する、あるいは利上げに踏み切る可能性も高まる。そうした環境下では、利息を生まない金への投資には逆風となる。当面は、値動きの重い展開を予想している。