国際金融ストラテジスト長谷川建一が解説する金融市場レポート
米・イランの和平協議が進展か?
トランプ米大統領は、イランが核開発計画の無期限停止に合意したと公表した。米国とイランが「極めて有意義な協議」を行い、主要な論点の多くが整理されており、今後の進展は迅速になるとの期待を表明した。トランプ大統領は、核活動凍結措置について「無期限」である旨を明確にしており、恒久的合意に向けた協議を4月18-19日にも開催する可能性を示唆した。また、「レバノン情勢を含め、多くの前向きな動きがみられる」とも述べた。
また、アラグチ外相が、レバノンに拠点を置くヒズボラとイスラエル間の10日間の停戦期間中は、ホルムズ海峡を開放するとの声明を発表したことを受け、両国の停戦合意および恒久的合意への期待が高まった。
この措置を受けて、ペルシャ湾で係留中だった少なくとも8隻のタンカーが海峡通過を開始したことが確認されている。エネルギー供給の再開観測が強まり、原油・石油製品・天然ガス価格はいずれも急落した。17日、WTI先物5月限は前日比10.84ドル(11.5%)安の1バレル=83.85ドル、北海ブレント先物6月限は9.01ドル(9.1%)安の90.38ドルで取引を終えた。
燃料不足は、世界中の国を苦しめており、供給の道が開かれることは朗報だろう。原油供給の混乱による経済的な重圧は深刻になってきており、金融市場にも重しとなってきた。
ただ、手放しで喜べるかはわからない。米国が、凍結中のイラン資産の解除に応じるとの一部報道についてはトランプ大統領も否定した。イラン資産の凍結解除は、ウラン備蓄の放棄を条件に合意されるとの一部報道もあったが、詳細は依然不透明である。
イラン議会のガリバフ議長は、米国側の発言を虚偽とする見解をSNS上で示し、このような主張は今後の交渉には寄与しないとの立場を強調した。また、米国が海上封鎖を継続する場合、ホルムズ海峡は開放されたままとは限らず、航行はイランが指定するルートで、イランの許可に従って許されると再確認した。
ロシア産原油の販売を一時的に許容 ~原油価格高騰に苦しむ米政府
17日、トランプ政権は、タンカーに積載済みのロシア産原油の販売を一時的に認めるライセンスを新たに発行した。先月、原油価格急騰を抑えるために、経済制裁の対象であるロシア産原油の販売を一時的に許可した措置は、4月11日に失効したが、これを更新した形である。許可は、5月16日までの時限的措置で、価格急騰を抑える取り組みの一環である。
15日には、ベッセント財務長官が、ロシア産およびイラン産原油の一時的な販売を認める一般ライセンスは更新しないと述べていたにもかかわらず、今回、更新されたことで、トランプ政権の方針は転換した可能性がある。
イラン戦争が始まり、世界の石油の約5分の1が通過する重要なエネルギー輸送路であるホルムズ海峡が事実上封鎖されて以来、原油価格は高騰しており、世界の燃料価格は急騰した。米国のガソリンも例外ではない。
ただ、3月から実施されたロシア産原油の適用除外措置は、世界のエネルギー市場を沈静化させることに寄与したわけではない。むしろ失敗したとの評価もある。結果として、ロシアに多額の収入をもたらしたという結果に終わっており、トランプ政権の措置は、ロシアに塩を送っているだけだとの批判もある。今回の措置について、EUや欧州諸国は、原油の販売が許容されることでロシアに資金が流れ、ウクライナ侵攻後に発動された経済制裁を弱めることになると批判が上がっている。
4月20日週金融市場見通し
<米国債券>
中東における地政学的緊張の緩和を受けて原油価格が急落したことから、米FRBが年内に政策金利を引き下げるとの観測が復活した。そのため、米国債市場はすべての年限で上昇し、利回りは低下した。指標である10年米国債利回りは4.24%、30年米国債利回りは4.88%、2年米国債利回りは3.70%で取引を終えた。2年米国債利回りは3月18日以来の初めて、現在のフェデラルファンド金利誘導レンジの上限である3.75%を下回った。短期金融先物市場では、今年12月のFOMC会合で、0.25%幅の金融緩和が実施されるシナリオの織り込み幅が拡大した。2年債と10年債の利回り格差は54.6bp。
ホルムズ海峡の開放など、湾岸地域において和平への前向きな動きが強まれば3月に急上昇した債券利回りは、反転低下することになろう。ただ、現時点では戦争終結の見通しは不透明で、報道内容には楽観的過ぎることに注意が必要だろう。
FRB高官の発言では、ウォラー理事がイラン情勢によるエネルギーショックがインフレリスクを雇用市場リスクよりも大きいと判断させる場合には、長期的な金利据え置きが必要になる可能性を指摘した。根強い物価の上昇圧力や堅調な米経済により、FRBが長期間金利を据え置く可能性への警戒感が残っていることも確かである。
<米国株式市場>
4月17日金曜日には、イラン戦争終結への期待感からリスク選好が高まり、米主要株価指数は続伸した。ホルムズ海峡開放の報道を受けて原油価格が急落しWTI原油先物は11%超急落し85ドルを割り込んだ。これにより、インフレ懸念が後退し、米国債価格を押し上げた(利回りは低下)。S&P500指数は3日連続で最高値を更新し、ナスダック100指数は約13年ぶりの連続高を記録した。
なお、米国とイラン間の具体的合意内容は依然として不透明である。トランプ大統領は合意成立まで海上封鎖を継続すると表明し、イラン側も譲歩内容に差異が見られる。イラン資金の解凍や濃縮ウラン備蓄の放棄などが協議されているが、核開発計画の停止や恒久的合意にはさらなる協議が必要との見解も示されている。原油ショックの長期化リスクを見極める必要があり、市場関係者は今後の合意内容を慎重に評価することになろう。
AI関連銘柄は先週も断続的に上昇し強気のモメンタムを維持していること、企業決算も良好な結果が続いたこと、さらにFRBによる追加利下げ観測が復活したことで、S&P500指数の月初来パフォーマンスは2020年以来の大幅高となっている。
<為替>
イランのアラグチ外相は、イスラエルとレバノン間の停戦期間中、ホルムズ海峡を全商船に開放すると公式に発表した。イランによるホルムズ海峡開放声明を受け、市場のリスク選好が急速に高まったことを背景に、安全通貨として評価され、買われていた米ドルは反落した。戦争開始当初は原油高騰と安全資産への逃避需要からドル高の流れが顕著だったが、停戦合意発表と双方の和平協議姿勢を受け、ドルから他通貨へ資金がシフトした。米株式市場も米国債も大幅に上昇したが、米ドルインデックスは下げ97.96まで下落、安値は97.632までつけて、7週間ぶりの安値となった。
ドル円は1ドル=158.22円までドルが売られた。先週は、一時1ドル=159.86円高値を記録しており、週足ベースでは9週間ぶりの大幅下落となった。植田日銀総裁は、4月の金融政策決定会合での利上げ観測後退についてコメントを控えつつ、実質金利は中期ゾーンまで非常に低水準に留まり、金融環境が緩和的である点を考慮して政策判断を行う旨を説明した。これは、利上げには慎重な姿勢であるとの受け止め方が多く、ドル円が下げる材料視はされなかった。
欧州通貨ではユーロが一時8週間ぶりの高値となる1ユーロ=1.1848ドルを付け、1ユーロ=1.1789ドルまで上昇した。週足ではユーロが3週続伸となった。英ポンドは1ポンド=1.3546ドル、豪ドルは1オーストラリアドル=0.7178米ドルと、4年ぶりの高値圏をつけた。
イラン戦争収束の期待が高まるが、その他にも、材料は多い。米国の財政赤字拡大や雇用市場の後退懸念、各国中央銀行の金融政策についての不透明感はドル売り要因として為替市場の次の注目となろう。
<原油>
イランのアラグチ外相がホルムズ海峡の「完全な開放」を表明し、米国・イラン間の紛争終息とエネルギー市場の安定化への期待が高まったことから、原油先物市場は大幅に下落した。WTI先物5月限は1バレル=83.85ドルで取引を終えた。北海ブレント先物6月限は1バレル=90.38ドル。17日の変動は、一日の下落幅としては4月8日以来最大となった。
原油市場はイラン戦争および海峡閉鎖の収束を織り込み始めているが、詳細は明確ではなく、イラン側も直ぐに解放を撤回するなど、市場が飛びついた「全面的な開放」とのニュースとは事実は異なる可能性があることに注意が必要であろう。仮に、何らかの合意成立の場合でもホルムズ海峡の全面的な輸送再開は6月または7月にずれ込むとの観測もある。
<金>
ドル安およびイランによるホルムズ海峡解放発表を受けた原油価格下落により、インフレ懸念が後退し、金先物相場は続伸した。金先物は1オンス=4879.60ドル、金現物価格も1オンス=4861.32ドルで取引を終え、週足ベースでは2%超の上昇率を記録、約1カ月ぶりの高値を付けた。ただ、イラン戦争開始で流動性が逼迫することへの懸念から、投資家が他資産の損失補填のため金売却を大量に行ったことから金価格は、イラン戦争が勃発した2月末対比では、依然として約8%下落した水準にある。
ホルムズ海峡の再開は地政学的リスクの低減につながり、原油価格の低下が利下げ期待を支援するだろう。ドル安および金利低下は、非利息資産である金にとって追い風となる。このシナリオに沿えば、金価格にはポジティブな材料となり、金価格が1オンス=5,000ドル台を回復するとの見方が強まるだろう。