日銀の利上げは近い?
12月6日に日本の厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査(10月)では、一般労働者(パートタイム労働者を除く)の給与は、速報値で前年同月比2.8%増加し、1994年1月以降で最も高い伸びとなった。パートを含む全体でも同2.7%増と約32年ぶりの高い伸びとなった。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は2.6%増と34カ月連続でプラスだった。共通事業所ベースでは、名目賃金が同2.7%増加した。所定内給与は同2.8%増加で、前月9月から増加幅が拡大した。うち一般労働者は同2.8%増とこちらも高い伸びを維持した。
実質賃金の下げ止まる
ただ、実質賃金で見ると、伸びは0%で、3カ月ぶりに下げ止まった。実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は10月に前年比2.6%上昇。9カ月ぶりの低い伸びとなり、実質賃金の改善に寄与した。
賃金の上昇は、物価上昇に加えて重要なポイント
今回の統計は、日銀の物価目標である2%上昇の実現に向けて、物価とともに賃金が上昇する循環が続いていることを表している。植田日銀総裁はかねてより、物価の上昇に加えて、賃金の上昇が継続していることを追加利上げを判断する材料として挙げてきた。今回の統計により、基調的な賃金の着実な伸びが確認された形となることから、日銀の追加利上げの判断を後押しする材料にはなるだろう。
日銀は、12月18~19日に、金融政策決定会合を開催する。先週の植田総裁発言が報じられると、この会合で利上げを決定するとの期待が膨らんだ。短期金融市場で、金融政策見通しを反映するオーバーナイト・インデックス・スワップは、12月の利上げ確率を一時、7割程度まで織り込んだ。しかし、今週に入ると、利上げに慎重な日銀審議委員のコメントを受けて、利上げ期待はしぼんだ形となっている。
政治的な配慮も
政治的には、12月で日銀が利上げを実施することは、ややハードルがある。実質賃金の伸びがプラス圏で定着するには、中小企業を含めた全体の底上げが鍵を握る。石破政権は、新たに総合経済対策で、価格転嫁の円滑化などの環境整備を推進することや、経営基盤の強化・成長に向けた企業支援を拡充するとしている。これは、政府として中小企業の賃上げを後押しするもので、2025年の春闘で、中小企業にも賃上げの動きが拡大することを期待する状況である。実際に、石破首相も出席した労働団体や財界の代表らとの政労使会議では、2025年春闘では33年ぶりの高水準となった2024年以上の大幅な賃上げを実現するよう求めた。2025年春闘を前にした12月に日銀が利上げを実施することの是非は、議論が分かれることだろう。