戒厳令発表も、国民の支持も、政治的な支援も広がらず、すぐさま撤回
12月3日、韓国の尹錫悦大統領は、緊急の国民向けテレビ演説を行い「非常戒厳」令を宣布した。同演説で、尹大統領は「自由民主主義の基盤となる国会が自由民主主義体制を崩壊させる」恐れがあると指摘し、「韓国は崩壊してもおかしくないほどの危機に陥っている」と述べ、野党が大統領弾劾の圧力をかけ、政権を麻痺させようとしていると非難しつつ、自由と憲法秩序を守るために非常戒厳令を決定したと説明した。
韓国の国会は、少数与党の尹政権と最大野党の共に民主党との間で、激しい争いが続き、野党側は独自の予算案を議会で強行可決を仕掛け、尹大統領は議会を通過した一連の法案に拒否権を発動するして対応し、与党からも議会軽視の批判を買うこともあった。更に野党は、検事総長の弾劾決議案を提出するなどして、政権を揺さぶる一方、野党党首は複数の訴訟の被告人となり、11月には選挙違反で有罪判決を受けていた。
「韓国売り」の様相も
寝耳に水の非常戒厳令宣布を受けて、金融市場では、「韓国売り」で反応した。地政学的なリスクとの連想も多少はあっただろう。韓国ウォンは急落し、日本円を買う動きが強まってドル円は一時1ドル=148円台をつけた。韓国ウォンは1ドル=1,444.65ウォンを付けた。対ドルで約2年ぶりの安値をつけた。米国株式市場では、韓国株式で構成される韓国ETFが一時7%下落した。サムスン電子の株価は一時、前日比7.5%安まで下げ、韓国企業の米国預託証券ADRも軒並み値を下げた。
韓国通貨当局は、金融・為替市場を安定させるためあらゆる可能な措置をとると表明し崔相穆・企画財政相と李昌鏞・韓国銀行総裁は深夜に緊急会合を行った。必要であれば市場に無制限の流動性を供給する意向を示した。また、韓国国防相は軍最高司令官らとの会合を行った模様。
韓国国会は参加議員全員が戒厳令解除を支持
しかし、4日未明、韓国国会(定数300)が緊急招集され出席した190人全員が戒厳令の解除に賛成票を投じた。尹大統領はこれを受けて、テレビ演説を行い、「国会の要求を受け入れ、閣議で戒厳令を解除する」と述べ、3日夜に宣布した非常戒厳令を解除すると表明した。野党側は、尹大統領に辞任を求めている。
今回のドタバタ劇で、尹大統領への信頼は損なわれ、政治的な立場は追い込まれることになるとの見方が強い。野党が多数派を占める韓国国会では、大統領弾劾の動きもありうるだろう。早ければ、2025年第2四半期での大統領選挙の実施も視野に入るのではないか。