さらなる財政支援の拡大で、経済成長確保を打ち出し
11月4日から開催されていた中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、8日に藍仏安財政相がパンデミック以降では最大規模の財政支援策を発動することを示唆して閉幕した。
藍財政相は、低迷する中国経済を支えるためには、金融政策を緩和することと財政政策を発動することが重要だと述べた。金融緩和は中国人民銀行により、踏み込んだ緩和姿勢を明確にしているが、より大規模な財政政策のひとつとしては、地方政府向けの10兆元規模に上る債務スワップを発表した。また、2025年には「より強力」な財政政策を実施することも表明した。
12日には、低迷する住宅市場の活性化に向けた財政支援策の一環として、住宅購入時の減税を計画していることも漏れ聞こえてきた。上海や北京といった大都市での不動産購入者に対しては、不動産取得税が課されているが、これを現行の3%から1%に引き下げることを認める案が検討されているという。また、いわゆる「1級都市」では一般住宅と高級住宅の区別を廃止することも検討されているという。これにより、価格が高めの高級住宅への住み替えを望む人々への購入インセンティブが働き、買い替えが促進されるという。
トランプ復活による関税引き上げリスク
読みを難しくするのは、5日の米国大統領選でトランプ候補が勝利し、大統領返り咲きが確定したことで、通商政策が不透明になることだろう。トランプ候補は、選挙戦では60%もの関税を掛けることを訴えていた。もし、トランプ次期政権が中国製品に対する関税を本当に60%まで引き上げれば、中国の対米輸出は、実施後の1年間で最大70%減少するとの予想もある。多くのエコノミストは10-20%の関税引き上げが、現実的なシナリオだと予想している。前任期で貿易対立の際には、トランプ氏は、関税を15%程度引き上げたことも事実である。いずれにしても、米中関係は、新たな保護貿易主義の時代に突入する可能性は高い。中国としては、景気維持のために、米国の政策に左右されないよう、十分な対策を打っておくことが重要になりそうである。そのため、このあと、全人代常務委が打ち出す財政政策は、より大きな規模となることが期待される。
足元経済の厳しさは続く
一方で、中国経済の足元は厳しい。10月27日、中国国家統計局が発表した9月の工業部門企業利益は、前年同月比27.1%減と、8月に記録した同17.8%減から減少幅が拡大した。月間ベースでは、今年最大の落ち込みである。今年1⏇9月累積では前年同期比3.5%減で、1⏇8月累積の同0.5%増から減少に転じた。1⏇9月累計では、国有企業の利益が同6.5%、民間企業は同0.6%それぞれ減少する一方で、外資系企業は同1.5%増だった。工業部門利益統計では、主要事業の年間売上高が2000万元以上の規模の企業を対象としている。
統計局はコメントで、工業利益低迷の要因を、需要不足や生産者物価の一段の下落も認めながらも、比較対象となる前年の利益水準が高かったことによる統計のあやだとした。
先週発表された第3四半期の国内総生産(GDP)は前年比4.6%増で第2四半期の同4.7%増から減速、2023年初め以来の低い伸びにとどまった。前期比では0.9%増と伸び悩んでいる。第2四半期・改定値も同0.5%増だった。9月の鉱工業生産と小売売上高は事前予想を上回ったものの、不動産部門の低迷は、中国経済が計画通り成長するための足かせとなっている。
9月の若年層(16~24歳、学生を除く)失業率は3カ月ぶりに低下したものの、17.6%と依然高い水準である。若年層の失業率は、6月に13.2%だったが7月には17.1%に急上昇し、8月には18.8%に達していた。大学生を除いた25~29歳の失業率は6.7%で、30~59歳では3.9%だった。
中国政府は9月下旬から景気刺激策を相次いで打ち出した。そして、更にそれらを拡大しようとしている。景気立て直しに向けたコミットメントを打ち出すことには一応の評価がついてきているが、これらの景気刺激策が十分に効果を発揮するまでには、時間を要するだろう。中国政府の苦悩は続きそうである。