事前予想を覆す内容だった雇用統計
米国労働省が発表した9月の雇用統計は、改めて市場を驚かせる内容だった。非農業部門雇用者数の伸びは事前予想を大幅に上回り、失業率も低下した。賃金の伸びも前年同月比で再加速した。
非農業部門雇用者数は、前月比25.4人増加と6カ月ぶりの大幅増加だった。8月の同雇用者数も15.9万人増と、速報値の14.2万人増から上方修正された。同雇用者数のデータは7・8月の合計で7.2万人分が上方修正された。家計調査に基づく失業率は、前月の4.2%から4.1%へと低下した。9月の平均時給は、前年同月比で4%増と、これも事前予想の同3.8%増より上振れし、8月の平均受給の伸び同3.9%増を上回った。過去4カ月では最大の伸びである。
業種別では、娯楽・ホスピタリティーやヘルスケア、政府機関が雇用増をけん引した。民間部門の雇用の広がりを示す雇用ディフュージョン指数は今年1月以来の高水準に回帰した。ただ、製造業でみると雇用は2カ月連続で減少している。
先行して、公表された求人件数も堅調で、失業保険統計は増えていなかったことから、労働需要がこじっかりと推移し、レイオフの圧力も限定的であり、雇用市場は打撃を受けていないことが示された。一連の経済指標からは、雇用市場が急ピッチで冷え込み始めているとの懸念は、拙速だった可能性を示唆している。
また、米FRBが注視する賃金の伸びも再度加速した。9月FOMCでは、ボウマン理事が0.25%幅の利下げを主張し、異例の反対票を投じたことが明らかとなっている。同理事は、0.50%幅の利下げという判断は、FRBがインフレとの闘いで勝利宣言したと受け止められ、それが拙速な結果となるリスクを指摘していた。賃金の上昇率は9月雇用統計でも高いまま推移しており、9月FOMCで雇用市場が後退し始めているとの判断は誤りだった可能性に注目が集まり、FRBが批判にさらされる可能性もあろう。
パウエルFRB議長は9月末、全米企業エコノミスト協会の年次会合における講演で、9月FOMCで0.50%幅の大幅利下げを判断した理由の一つに、雇用市場が一段と冷え込んでしまうことを回避することを挙げていた。今回の雇用統計を額面通り受け取れば、FRBは利下げを急ぐ必要はないということになる。むしろ、9月に、そこまでの踏み込みが必要だったのか、疑問が生じた可能性すらある。一方で、FRBの利下げ開始が遅きに失するとの批判や懸念も後退することになろう。
金融市場では11月FOMC会合での大幅利下げ実施の観測が大きく後退した。FF金利先物では、0.25%幅の利下げを確実視する水準となった。FRBは今後、利下げをどのようなペースで行うかについて、一層、慎重にならざるを得ないのではないか。