為替の円安一服で時間的な余裕ができたか
日本銀行は9月20日、金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利を0.25%程度で維持することを全員一致で決定した。日銀は今年7月に同金利を0.10%から0.25%に引き上げる、追加利上げを実施したが、今回は、金利を現行水準に維持した。金融市場参加者の大半も、今回の政策決定会合では、金融政策の現状維持を見込んでいたため、驚きはない。
景気判断については、緩やかに回復しているとの認識を示し、今後の先行きについても「潜在成長率を上回る成長を続ける」との見通しを維持した。個人消費は、「底堅く推移」しているとのこれまでの判断から、「緩やかな増加基調」に引き上げた。消費者物価の上昇率は、経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示したとおり、2024年から2026年度の期間後半に「物価安定の目標とおおむね整合的な水準で推移する」との見方で据え置いた。声明文からは日銀の経済・物価の見方や政策運営姿勢に概ね変化は見られない。
植田日銀総裁は会合後の記者会見で、「経済・物価の動向が、日銀の見通し通りに実現していくならば、それに応じて政策金利を引き上げ金融緩和の度合いを調整していくことになる」との考えを改めて示した。ただし、米国経済や海外経済の先行きは不透明感を増しており、金融資本市場も今年8月に露見したように不安定な状況だと指摘し、これらの動向を「極めて高い緊張感」を持って注視する必要があると付け加えた。
リスク要因については、7月の展望リポートに続いて、金融・為替市場の動向や、それらからの日本経済・物価への影響を十分注視する必要があると指摘した。円安による輸入物価の上昇の影響を強く意識しているものとみられ、「過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と記された。円安の影響が強く意識されていることは重要なポイントで、今後の政策判断は、為替市場次第という部分は強まるだろう。
市場の焦点は、日銀がどれだけ早い時期に次回の利上げを実施するかにシフトしている。植田総裁は、高い緊張感を持って市場を注視するとしつつ、経済・物価が日銀の見通しに沿って推移すれば追加利上げを進めるとの姿勢を維持している。しかし、8月初の金融市場の急変を受けて、内田真一副総裁は8月7日に、市場が不安定な状況で利上げはしない考えを表明した。また、今回の政策決定会合でも、7月に1ドル=160円台だったドル円為替レートが、140台前半まで円高に振れており、急激な円安に伴う物価の上振れリスクは、後退している。このため、政策判断に当たっては「時間的な余裕はある」との判断に傾いており、日銀は追加利上げを急がないと見るべきだろう。
今回の決定を受けて外国為替市場ではドル円が一時1ドル=143円台から141円台を付ける円高の動きを見せた。しかし、その後、日銀が金利の引き上げを急がないとの見方と、米FRBがそれほど大幅に金利を引き上げないとの見方から、1ドル=144円台までドルが買い戻されて上昇した。