根強いインフレ圧力

PCE統計はインフレ圧力の継続を示唆

8月30日、インフレ動向を示す重要なカギとされている米個人消費支出PCE(7月)が発表された。

PCEコア価格指数は、前月比で0.2%上昇と前月と同じだった。前年同月比では2.6%上昇と前月の同2.5%上昇から、わずかながら上昇幅が拡大した。PCE総合価格指数は、前月比0.2%上昇と前月の同0.1%上昇から上昇幅が拡大、前年同月比では2.5%上昇だった。

すなわち、PCEの伸びは加速したことになり、インフレ圧力が明らかに後退しているとは言えない統計だった。FRBが最重要視しているサービスインフレ(住宅とエネルギーを除く)は、2カ月連続で前月比0.2%上昇、前年同月比では3.25%上昇と、やはり、インフレの根強さを示した。

一方で、実質可処分所得は2カ月連続でわずかに増加した水準にとどまった。インフレ調整前の賃金・給与は前月比0.3%増と、前月からわずかに加速したものの、2023年に見られた伸びからは大きく下回っている。所得の伸びは、期待外れの内容となった。貯蓄率も2.9%に低下した。これは2008年以降で2番目に低い水準である。消費支出は加速したが、所得の伸びは鈍り、貯蓄率も低下した。今後の個人消費が、年前半のような堅調さを維持できるかどうかには、やや疑念が生じている。

米FRBは雇用の最大化とインフレ抑制の両睨みにシフト

7月のFOMC時点で、FRBはインフレ圧力の緩和を最重要視して金融政策を引き締める姿勢から、雇用市場の最大化とインフレ圧力の持続的な低下とのバランスを取る姿勢にシフトしている。それには、景気に抑制的でブレーキを踏むような金融政策姿勢を転換する必要がある。先々週のジャクソンホール会議で、パウエル議長は、利下げを開始する「時が来た」と発言した。そのまま受け止めれば、9月FOMCでの利下げ開始は、揺るがないだろう。一方で、インフレ圧力の緩和は、そう簡単には達成できないことが、今回のPCE統計でも突き付けられた。

大幅利下げ織り込みで先行する金融市場

金融市場は、年内で合計1.00%幅の利下げが実施されることを織り込んでいるが、これには、残り3回のFOMC会合で、1回の0.50%幅の利下げと2回の0.25%幅の利下げが必要になる。そこまでの利下げ実施を正当化するデータを得ることは困難であろう。年内に実施される利下げ幅の合計は、0.50%程度にとどまるのではないか。

米国経済最大のエンジンである個人消費の動向にとって、雇用市場の動向は最も影響する。9月6日に発表予定の8月の雇用統計は、9月FOMCでの金融政策当局者の判断に少なからず影響する。筆者は引き続き、0.25%幅の利下げを予想している。

消費者信頼感指数は改善

米ミシガン大学が8月30日に発表した8月の消費者信頼感指数調査では、消費者信頼感指数の確報値は67.9となり、5カ月ぶりに改善した。

ミシガン大のコメントによれば、米国大統領選挙の情勢の変化が、消費者信頼感指数に影響を与えたという。7月時点の調査では、共和党候補のトランプ前大統領が勝利するとの予想が51%で、バイデン大統領の37%を上回っていた。しかし、その後、バイデン氏が選挙戦から撤退し、ハリス副大統領が民主党の大統領候補に選ばれたため、情勢に変化が生じた。8月の調査では、トランプ氏の勝利を予想する消費者が36%、ハリス氏の勝利を予想する消費者は54%と逆転した。

なお、1年後のインフレ期待は2.8%まで低下した。7月は2.9%だった。これは、2020年12月以来の低い水準である。5年後のインフレ期待は3.0%のままで、前月と変わらなかった。インフレ見通しの改善が消費者心理にも影響を与えた。

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