英国総選挙もあり、欧州の政治状況が大きく変化する可能性大
欧州議会選で大敗
6月12日、マクロン仏大統領は、国民議会(下院)を解散し総選挙を実施することを発表した。欧州議会選挙のフランス国内での得票は、ルペン氏が率いる極右政党の国民連合(RN)が32%だったが、マクロン大統領率いる与党連合の得票は、わずか15%にとどまる惨敗だった。ちなみに、ドイツでも野党保守系政党連合が得票率31%を得たのに対し、ショルツ首相率いる与党・社会民主党(SPD)の得票率はわずか15%にとどまり、過去最悪の惨敗となった。
マクロン大統領としては、自身の政策を国民に改めて問いただし、政権基盤の確保を狙った解散権の行使だが、リスクの高い賭けとみる厳しい視線が注がれている。フランスで下院が解散され選挙が実施されるのは、シラク政権下だった1997年以来のことである。
仏総選挙は第1回投票が6月30日、決選投票が7月7日実施
総選挙は、第1回投票が6月30日、決選投票が7月7日に実施される。国民議会の選挙であり、国家元首であるマクロン大統領の地位は、総選挙の結果から直接影響を受けることはない。しかし、与党が議席を失えば、大統領府と議会が、政策の推進を巡って対立することも考えられ、マクロン大統領がレイムダックに陥ることも懸念される。EUにとっても、フランスのリーダーシップが力を失うこととなれば、経済状況やウクライナへの支援などを含めて課題が山積する中、痛手となるだろう。しかも、夏季オリンピックの開催を目前に控えており、フランスが政治的混乱に陥れば、経済的にも影響が出る可能性がある。
総選挙では、極右勢力のRNが第1党となる可能性がある。世論調査によると、RNは第1回投票で35%の支持を獲得する勢いである。次いで、左派系連合「人民戦線」が支持率26%、マクロン氏率いる与党「再生(RE)」は19%で3位となっている。RNが第1党となれば、ルペン氏が次期首相の指名争いで重要な役割を担う可能性がある。ルメール仏経済財務相は、ルペン氏の政策が実行に移される場合、金融危機を招きかねないとの予測を示した。金融市場では、ユーロが売られ1ユーロ=1.0700ドル水準まで下落し、約1カ月ぶりの安値を付けた。フランス国債は下落し、フランスとドイツの10年債利回り格差は拡大し、フランス株も下落した。
ルペン氏は仏紙とのインタビューで、「私は制度のカオスを求めているわけではない」と発言し、柔軟な姿勢を示して、主流派有権者の間に不安が拡大しないよう、訴えかけている。しかしフランスの一部都市では、ルペン氏の極右政党に反対する大規模デモも起こった。RNが過半数議席を獲得すれば、EU内の政治状況は大きく影響を受けるだろう。
7月4日英国総選挙実施
7月4日には、英国でも総選挙(下院選)が実施される。しかし、3週間前の総選挙実施の発表後、スナク首相率いる与党保守党への支持は広がらず低迷している。英紙の世論調査によると、最大野党・労働党が262議席で過半数を獲得する見通しである。与党・保守党の獲得議席はわずか72議席に過ぎず、惨敗が予想されている。別の調査でも、労働党が保守党を17ポイントもリードしている。いずれの調査からも、スナク首相率いる保守党が、結党以来最悪の歴史的大敗を喫することが予想されている。
フランスでは、マクロン大統領の指導力が後退し、欧州の政治状況にも影響しかねない事態に、英国でもブレクジット・ショック以来の混乱が起こる可能性に、注意が必要だろう。