ECBとカナダ中銀が0.25%幅の利下げを実施
6月6日、欧州中央銀行(ECB)は、政策理事会を開催し、政策金利である(ECBでの)預金金利を3.75%に引き下げることを決定した。ECBは2023年9月に政策金利を4.00%に引き上げて以来、その水準を維持してきたが、9ヶ月を経て利下げに転じた。
政策変更の理由としては、インフレ見通しが「著しく改善」したためで、前回の理事会で予告されていた通り金融緩和に踏み切ったことが強調された。ただ、今後の追加利下げの可能性には触れられず、理事会後に公表された声明では「政策委員会は今後もデータを注視し、会合ごとに適切な景気抑制の水準と期間を決定するアプローチを取る」との説明がされただけである。
2024年と2025年のインフレ予測は、むしろ引き上げられた。2025年のインフレ率は平均2.2%と水準を切り上げた。2024年のユーロ圏の経済成長率見通しも、これまでの0.6%から0.9%に引き上げられた。こうしたデータも持ちながら、利下げを決断したことには、違和感も覚えるが、それだけ景気の腰の弱さを期にしてのことだろう。
ECBは利下げに転じたが、金融政策の先行きは、ユーロ圏経済の腰の強さとインフレ圧力の趨勢とのバランスに拠るだろう。昨年9月までの利上げ局面では、インフレ圧力の抑制に優先順位が置かれていたが、今年に入って景気が後退する可能性が高まり、リスクは景気のダウンサイドとインフレ圧力のアップサイドのどちらにもあるという状況になった。
利下げ実施という事実だけを見れば、ECBは米FRBや英BOEに先駆けて、金融緩和に踏み切ったということになるが、これが今後の利下げを必ずしも意味しないことには注意が必要である。6月5日には、カナダ銀行が政策金利を0.25%引き下げ4.75%とした。カナダ経済もソフトランディングに向かっており、基調的なインフレが緩和傾向にあるとの証拠を得、インフレ率が目標の2%に向かっているとの確信を深めたとして、金融緩和に踏み切った。
ただ、ECBもカナダ中銀も認める通り、インフレ抑制の道のりは平坦ではなく、紆余曲折ある可能性が高いだろう。インフレ見通しは、引き続き、世界的な地政学的なリスクや賃金上昇率、高騰する住宅価格、エネルギー価格などにより、大きくブレ得る。また、自国通貨が下落すれば、輸入物価の上昇により、インフレ圧力が再び強まることが考えられ、リスクとなるだろう。