モディ首相率いるインド人民党は過半数に届かず
インド総選挙は、6月4日から開票が始まったが、モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)は、国民議会での単独過半数を失う見通しが伝えられた。世論調査ではBJPは360~400議席を獲得するとも予想され、出口調査の段階でもBJPは、過半数の272議席を確保する見通しが報じられていた。しかし、蓋を開けてみればBJPが2019年の前回総選挙から議席を大きく減らすという想定外の状況が判明した。BJPは240議席を獲得し第1党の地位を維持したが、過半数の272議席には届かなかった。開票前に、BJPの勝利を織り込んで上昇していたインド株式市場は、4日に開票状況がBJP苦戦を伝えると大幅に下落し、SENSEX指数は前日比6%近く下落した。
モディ政権継続に黄信号
352議席を獲得した2019年の実績を大きく下回る結果となったBJPは、政権を維持するには、他党と連立を組まざるを得ない。モディ首相は、連立パートナーである国民民主同盟(NDA)の2つの主要政党からの支持を固める必要がり、この2政党の党首の動向には注目が集まっている。2人とは、ビハール州の政権党ジャナタ・ダル統一派(JD-U)のニティシュ・クマール党首と、アンドラ・プラデシュ州の首相に返り咲く予定のテルグ・デサム党のナラ・チャンドラバブ・ナイドゥ党首である。
240議席の獲得にとどまったBJP対し、野党連合であるインド国民開発包括同盟(INDIA)は229議席へと議席数を増やした。2019年の94議席からは大躍進と言える。INDIAはクマール氏とナイドゥ両氏に連立の可能性を打診したと伝えられる。もしこの2人が政権交代に動くようなら、モディ首相率いるBJPは、政権を樹立するために必要な議員数を確保できないという事態も考えられる。
モディ首相は勝利宣言!
議席を減らしたとはいえ、これまでの実績を考えれば、モディ首相続投の可能性は十分にある。与党連合を引き締め直し、「アメ」をばら撒いて、求心力を維持するシナリオが囁かれている。モディ首相は6月4日にニューデリーのBJP本部で支持者に対し勝利宣言をした。2047年までに先進国入りするとの目標を改めて示し、「次の任期」でインドは、大きな決断を伴う新たな局面を迎えると語った。モディ政権は過去10年、財政規律を健全に保つことを政策運営の柱の一つとしてきた。ただ、それを棚上げする決断をしてまでも、権力闘争に打ち勝つ局面との覚悟のようである。
政権維持でも求心力低下がインド経済の成長に及ぼす影響
インドが先進国並みの高所得国に成長するには、今後四半世紀にわたり年率8%水準の成長が必要とされる。足元のインド経済は、2023年4月から24年3月の一年 間で8.2%だった。ただ、2024年度についてはインド中央銀行は7%程度の成長を予測している。
BJP主導の政権が成立すれば、政策面では引き続き外国からの投資や企業活動に寛容で穏健なアプローチを追求すると見られる。しかし、BJPとモディ首相の求心力が弱まることも懸念され、経済成長のために必要だとされる雇用や土地、農業に関する規則改革が進むのかどうかは見えない。
労働者の雇用や解雇を容易にし、雇用市場を流動化する労働法は2019年に国民議会で可決されたが、地方の州政府単位で見ると、実施には至っていない。また、土地取得制度が複雑であるため、外国企業からのインド投資は必ずしもスムーズとは言えない。労働者の50%が未だに農業に従事しているという産業バランスの悪さは、農業改革が進まない中、改善の見通しが見えない。このうえ、更にBJPの支持率が低下すると、モディ政権といえども、政治・経済改革を推し進めることが難しくなる可能性もありうる。その場合に、成長シナリオを動画き直すのかを含めて、シナリオは不透明感を増すのではないか。