財務省が外国為替平衡操作の実施状況を公表/4月26日から5月29日
5月31日財務省は外国為替平衡操作の実施状況を公表した。4月26日から5月29日までの間に、日本政府・日銀が実施した為替介入は合計で9兆7,885億円だったことが明らかになった。
為替市場では、日銀が公表する当座預金残高から介入額を推定していたが、ドル円が34年ぶり高値となる1ドル=160円台をつけた4月29日の実施額が5兆5,000億円程度、5月2日の実施額が3兆6,000億円程度とされていた。今回の財務省発表は、総額のみで実施日ごとの詳細は不明だが、円買い介入の実施総額は、市場が推計していた額を上回る規模だったことになる。
認めたくない(!?)介入実施
世界中から介入の実施を認めるかが注目されている中、財務省の公表文は実にそっけないもので(添付画像の通り)、『外国為替平衡操作の実施状況 (令和6年4月26日~令和6年5月29日)』を淡々と記載してあるだけである。財務省は、公式には為替介入を実施したとは認めていない。為替介入が、他国の賛同を容易に得られるものではないことは明白である。財務省としても大っぴらに、「介入を実施しました」と認めにくいのは、現実だろう。他国からしてみれば、主要通貨の中で、最弱通貨となって久しい日本円の急落を止めるために、非常時と判断した当事国が採った手段を、見て見ぬふりをしているというスタンスであろう。
いずれにしても、事実としては、日本政府による巨額の円買い介入が実施されたという事である。心理的には、ドル買い・円売りポジションを積み増す行動は、やや取りにくくなろう。しかし、日銀が、主要国の中央銀行の中で、最も緩和的な金融政策を維持している状況は変わっていない。円は米ドル以外の主要通貨に対しても、安値を更新する動きを見せており、本質的には日本円売りの圧力が緩和に向かっているとは言い難い。
日銀が金利正常化へ?
さて、そんな中、気になる動きが日本の金利上昇である。先週、日本の債券市場では、日本銀行の金融政策正常化への警戒感が強まり、日本国債をはじめとして、債券は売り浴びた。
総務省が、5月31日に発表した5月の東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除くコアCPIが、前年同月比1.9%上昇と伸び率が前月から拡大した。東京都区部のCPIは全国のCPIの動きに選考するものとして注目度が高い。日本銀行は、引き続き物価の上昇が目標である2.0%を持続的に超えるような状況になっていないとの見方を堅持しているが、その見方には筆者は懐疑的である。この局面で、緩和的なスタンスを取ることへのリスクのほうが大きいのではないかと感じている。むしろ、やや引き締め気味な姿勢を取ることで、市場の警戒感を醸成したほうが、為替相場でも日本円の先安感を醸成しないことにつながるのではないか。加えて、円安による輸入物価上昇圧力も緩和でき、結果として金利を引き上げなければならない事態を回避できるのではないかと見ている。ただ、がんじがらめの日銀に政策変更は望めそうにない。
円安圧力続く
5月のドル円の動きを振り返ってみたい。4月29日に1ドル=160円を超える水準までドルが買い上げられたものの、日本政府による2度の円買いドル売り介入により、ドル円は1ドル=153円を割れる水準まで値を下げた。しかし、5月を通じて、ドルは断続的に買われ、結局は1ドル=156-157円水準で取引を終えた。
財務省が発表した「外国為替平衡操作の実施状況」では、9兆7,885億円規模の介入実績が確認され、これは、2022年に実施された9兆円の実績に並ぶものだった。日本政府の本気度が示されたと言えるだろう。このため、当面は、介入を実施した水準である1ドル=157円水準が上値として意識され、ドル円の上値を抑えるだろう。
ただ、ここで気をつけなくてはならないのは、ファンダメンタルズは何も変わっていないことである。日銀の円安に対する危機意識も、それほど感じられない。従って、円安という相場感は本質的には変わらないだろう。
そこで、見ておかなければならないのは、対ドル以外の主要通貨に対する日本円の相場の動きである。日本円は5月に入って、対ニュージーランドドルで17年ぶりに安値を更新し1ニュージーランドドル=96円65銭をつけた。27日には対英ポンドでも16年ぶりに安値を更新し1ポンド=200円35銭をつけた。29日には対オーストラリアドルでも11年ぶりの安値(1オーストラリアドル=105円)に並ぶ水準まで売り込まれている。対ユーロでも、円は最安値の目前まで売られており、1ユーロ=171円が視野に入る。日本円は5月に最弱通貨になった。
問題は、いずれの通貨も、利下げすら想定されている中、これだけ日本円が下落したことである。この下げのキツさは極めて先安感が強いことの現れだろう。介入を実施してなお、こういう状況であることを認識しておく必要があろう。