5年ものLPRを0.25%幅で引き下げ
中国人民銀行は2月20日、5年物ローンプライムレート(LPR)を0.25%幅引き下げ3.95%とすることを発表した。8カ月ぶりの引き下げとなる。下げ幅の0.25%は、プライムレートが2019年に導入されて以来最大の引き下げ幅である。
5年ものLPRは、住宅ローンの指標金利であることから、住宅需要を喚起することを狙ったことは明白である。加えて、過去最大の幅で引き下げを実施することで、中国当局が市場を支える強い意思を示した面もあろう。低迷する不動産市場のカンフル剤となるかどうか、注目される。
金融緩和策を立て続けに発動
人民銀は2月初めには預金準備率を0.50ポイント引き下げ、銀行システムに1兆元の流動性を追加、農業や中小企業への融資を促進するために再貸出金利も引き下げる緩和策を打ち出した。こうした金融緩和姿勢を強める人民銀行の動きを受け、貸出金利の引き下げを含む追加措置への期待は高まっていた。ただ、18日には、市中の貸出金利の指標とされる1年物LPRは2.50%に据え置かれていた。人民銀行としては、債務が膨張しすぎないようにとの穏健な緩和アプローチと、人民元相場への配慮もあっての現状維持だったが、不動産需要の換気には乗り出さざるを得ないと判断したと思われる。
国内消費は回復鮮明とならず
世界2位の経済大国である中国だが、パンデミック後の国内消費は弱く、不動産市況の不調も長期化して、1990年代以降では、最もデフレ圧力に晒された状況にある。これは、消費マインドが、住宅価格の下落などの理由で低迷していることが大きく影響している。1月の消費者物価指数CPIは前年比0.8%下落となり、4カ月連続の減少となった。CPIは昨年12月に記録した前年比0.3%減少から、更に下落幅が拡大しており、2009年9月以来の大幅なマイナスだった。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアインフレ率は前年比0.4%上昇だが、12月の同0.6%上昇から上昇幅は縮小している。
物価指標はデフレ圧力を示唆
生産者物価指数PPIも前年比2.5%下落した。物価の下落傾向がこれほど鮮明になってきていることは、消費の弱さを反映していることに他ならない。中国自動車工業協会が発表した1月の乗用車の国内販売台数は174.6万台で、前月比26.3%減だった。前年同月比では43.3%減という有様である。
春節(旧正月)連休中の旅行・消費支出は、新型コロナ禍前の水準を上回った。2月10日から17日までの春節連休の間に、中国全土で延べ約4億7400万人が旅行に出掛け、2019年との比較では、同期間の人出を19%程度上回っているという。観光に伴う支出額も計6,330億元で、2019年対比8%近く増加した。消費の伸びを予感させるデータは心強いが、今年は春節連休の期間が昨年より1日長いことも事実で、このデータが消費の回復を示唆するものかどうかは疑わしい部分もある。
外国からの資金流入は細る
外国からの中国への投資は、新規投資が減少し、企業の撤退や事業縮小による資本流出の動きもあり、約30年ぶりに低水準を記録した。中国国家外貨管理局が18日に公表した2023年の国際収支統計では、外資企業による中国への直接投資は、前年比82%減の330億ドルにまで落ち込んだ。2023年7~9月期は、資金の流出額が流入額を上回り、1998年以降で初の減少を記録した。10~12月期はなんとか175億ドルのプラスに転じ、2023年通年ではプラスを確保したものの、新規投資額がピークを付けた2021年と比べて、約1割程度の水準にまで落ち込んでしまった。
やはり政策待ち
背景には、地政学的リスクの高まりや経済安全保障の観点から、米国主導での対中輸出規制が強化されている流れも影響している。また、中国国内では半導体などの先端技術を巡り、国家安全を重視する観点から、外国人の経済活動への締め付けが厳しくなっている。長引く不動産不況を背景に中国市場の成長力に陰りがみられることも、資本流入が減っている要因だろう。外資企業の中国投資意欲は、明らかに後退している。国内消費の拡大が見込めず、外国からの資金流入も細ったままでは、厳しい経済環境は続くことになる。やはり流れを変える力強い財政政策は、必要なのではないか。
市場の回復も一時的か
金融市場では、中国政府が多額の不動産向け融資を許容する方針であるとの報道や、深圳・上海証券取引所が打ち出したクオンツ取引に対する監督強化方針に反応して、株価が反発した。CSI300指数は、2月2日に付けた安値3,179.63からは、9%近く高い水準にまで値を戻した。ただ、取引の自由を制限してまで、市場での行動の監督を強めるのは、長期的にはプラスの結果をもたらさないだろう。やはり、中国経済の好転を引き出す政策の展開が待たれることになる。