パウエル議長は利下げ観測を時期尚早と否定も、米国経済の減速⇒金利低下観測強まる

米ISMもやや弱めの指標

経済指標では、12月1日に米ISMが発表した11月の製造業指数は46.7で前月と変わらず、13カ月連続で50を下回った。新規受注も、48.3と10月の46.5からは改善したものの、15カ月連続で50を下回った。これだけ長期にわたって50を下回っている状況は、1982年以来のことである。また、雇用は45.8と46.8から低下した。生産も48.5で前月の50.4から縮小に転向した。業種別では14のセクターが活動縮小を報告し、電気機器・家電、コンピューター・電子製品などで下落が目立った。

需要は弱い動きが継続しており、製造業の生産高は10月と比較して減少した。受注残は過去3年で最低水準にある。製造業で生産や雇用が上昇に転じる兆しはない。また、高金利による借り入れコスト上昇と財への需要減退は、製造業の設備投資計画を下方修正する動きに繋がっている。

 NovemberOctober
Manufacturing PMI46.746.7
New Orders48.345.5
Production48.550.4
Employment45.846.8
出典:米ISM発表より筆者作成

先週発表された地区連銀経済報告(ベージュブック)でも、製造業の先行きに厳しい見通しが示されており、これは、ISM製造業指数とも符合する。また、前週に発表された11月の米国製造業購買担当者指数PMIともリンクしている。今週は、雇用統計が発表されるが、弱い経済指標に反応しやすい環境になっていることには留意しておきたい。

パウエル議長が講演

当局者の発言では、パウエル議長講演が注目されていた。12月1日の講演で、パウエル議長は、FOMCが慎重に行動することを前置きしたうえで、追加利上げの選択肢も維持すると述べた。12月12~13日のFOMC会合では、金利を据え置くと見込まれている。インフレ圧力が完全にコントロール下にあるかどうか不透明な中、金融市場で拡大しつつある2024年前半での利下げ転換期待を抑える意図は明らかである。

しかし、市場参加者はパウエル議長が「十分に景気抑制的なスタンスを達成した」と述べた部分を切り取って、金融政策でハト派スタンスに転じたと断じた。パウエル議長をはじめFOMC参加者は、このところ、経済状況を評価するために様子見を継続することを示唆している。2022年3月にゼロから引き上げた政策金利は5.25-5.50%に達しており、経済成長ペースはやや鈍り、インフレ率の上昇ペースは低下に向かっていることは確かであろう。しかし、リスク要因が完全に払しょくされたわけではなく、FOMCは慎重に判断するだろう。今回の講演でも、パウエル議長は、FOMCがインフレ率を目標の2%に引き下げること、同目標に収斂する軌道上にあると確信できるようになるまでは、景気抑制的な政策を維持することにコミットすると強調した。

独り歩きするリセッション入り⇒金利低下観測

先号で書いたように、米国経済が、早期にリセッション入りするとのシナリオが独り歩きし始めた。しかし、米国経済が直ちにリセッションに陥り、金利が短期間に急低下するというシナリオは現実的とはいえない。FRBのシナリオは、インフレ圧力が緩やかに緩和することで、より長い期間、高い水準で金利を維持するというものである。10月CPIや11月PMIは、インフレ鎮静化への期待を膨らませるものではあるが、米国経済が景気後退入りするというシナリオには飛躍が多分に含まれている。

ブラックスワン的な事象でもなければ、2024年前半での、利下げには現実感に乏しい。緩和サイクルが開始されるタイミングは、市場期待よりも遅く、ドル金利は、全般的に緩やかに低下していくと考えるのが基本のシナリオであろう。

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