雇用の伸びは鈍化
11月3日に発表された10月米国雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比15万人増にとどまった。前月は速報値の33.6万人増から29.7万人増に下方修正された。事前予想以上に伸びが鈍化し、今年最も低い水準に伸びが縮まったことで、雇用市場に需給緩和の兆しが出てきたとの解釈が広がった。
家計調査に基づく10月の失業率は3.9%で、9月の3.8%から微増し、約2年ぶりの高水準となった。失業率の上昇も、労働者に対する雇用側の需要が冷え込みつつある兆しと受け止められる。家計調査では、20万人余りが職を失うか臨時雇用を終えた。
労働者への需要が後退していることにより、賃金の伸びも縮小した。平均時給は前月比0.2%の上昇にとどまった。前年同月比では4.1%上昇で、2021年半ば以降で最も小幅な伸びだった。労働参加率は、労働供給の減少を受けて62.7%に低下した。25-54歳の労働参加率は男性が主導する格好で、半年ぶりの水準に落ち込んだ。
業種別ではヘルスケアと社会扶助、政府部門が雇用の伸びをけん引した一方で、他の業種は低い伸びまたはマイナスとなった。全米自動車労組(UAW)のストライキによる製造業の雇用減少3.5万人が、含まれている。ただ、労使協議は暫定合意に至っているため、この影響は打ち返されるだろう。
これまでは、旺盛な個人消費を堅調な雇用市場が支えてきたことで、米国経済がうまく循環してきた。しかし、今回は、雇用者数の伸びが縮小し、賃金の上昇ペースも鈍化、労働時間は減少と、雇用統計としては厳しい数字が並んだ。雇用市場の健全性に疑問が呈された形で、このまま雇用市場の軟化が続けば、高金利による逆風を乗り切り、米国経済がリセッションに陥ることもないとの楽観論への懸念が高まるのではないか。