見透かされた円安阻止の思惑 ~ 日銀政策決定会合
10月31日、日本銀行は金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策を更に柔軟化する措置を決定した。YCC柔軟化とは、10年日本国債利回りで1%を超える取引を容認するというものである。短期金利自体はゼロ%程度とている誘導目標を維持し、10年日本国債利回りの上限めどである1%も変えないとした。
金融市場では、今回の決定について、日銀が超緩和的な金融政策からの出口戦略を実行に移す場合に、非常に遅い時間軸になると受け止めた。すなわち、日本円の金利上昇には、より長い時間を要すると解釈したのである。日銀はインフレを警戒する姿勢を鮮明にすることを拒み続けているように見える。一方で、植田総裁も認めた通り、米ドル金利には予想以上の上昇圧力が掛かっている。日米金利差は、当面縮小には向かわないということになる。
このため、ドル円為替相場は一時、1ドル=151円台後半まで下落した。これは、約1年前に日本の通貨当局が、円買いドル売り介入に踏み切った水準である。前日の30日には、日銀の政策修正見通しの報道に対して、円買いで反応する場面もあったが、31日は、円の先安観が一段と強まり、円売り圧力が再燃した。
為替市場は、1ドル=150円が日本の通貨当局にとって越えさせてはならない防衛線というわけではないと気が付いたようである。日本の通貨当局がどこまで円安を許容するか、為替市場で介入を実施する水準は何処か探ろうと、円売りを強めることになろう。
11月1日に、神田真人財務官は、円相場が年初来安値を更新したことを受けて、「過度な変動にあらゆる手段で対応する」と述べ、為替介入を「スタンバイ」すると発言して、市場の動きをけん制した。しかし、円安阻止のために介入を実施することに対して、警戒感は薄れている。神田財務官の発言後も、円相場は151円台前半の水準にとどまっている。日銀のYCC再修正は、為替市場への影響という点では、失敗したということになろう。