9月14日、ECBが政策理事会を開催
欧州中央銀行(ECB)は、9月14日に政策理事会を開催する。欧州は引き続きインフレ圧力にさらされており、目標である2%のインフレ上昇率を大きく上回る現状を鑑みれば、インフレ抑制のため、追加利上げは避けられないとみられてきた。しかし、欧州経済の足取りは脆弱になってきており、再びリセッションリスクが高まっている。この状況では、ECB政策理事会で、これまで予想されていたように、すんなりと追加利上げを決定することは難しいとの見方が強まっている。
金融市場では、今回の理事会で、0.25%幅の利上げが決断されるとの見方と、米FRB同様に、今回は、インフレを警戒して利上げカードはちらつかせながらも、利上げ判断は次回10月の理事会まで「一回休止」するとの見方が拮抗している。ECB理事らの意見も2つに分かれている。先週の段階では、ラガルド総裁やチーフエコノミストのレーン理事は、今回理事会で、追加利上げするのか、利上げ停止するのか、どちらを支持しているかについて、明確には触れなかった。
タカ派とハト派
金融引き締めに積極的な「タカ派」の理事らは、依然、総合インフレ率とコアインフレ率が、いずれも5%超という高い水準にあることを理由に、利上げを強く求めている。ナーゲル・ドイツ連銀総裁は、インフレは頑固な獣であるとの表現を繰り返し、インフレ目標達成への道のりはまだ遠いと語り、インフレが完全に抑制下にあるかのような考え方を戒めた。
一方で、「ハト派」の理事らは、域内の経済状況にばらつきが大きくなってきていることや、これまでの利上げの効果を見極めるべきと主張し、利上げカードを温存しながらも、今回は政策変更を見送るべきであるとしている。実際に、消費者調査では、今後12カ月間の欧州経済の成長率予想が、6月時点調査の▲0.6%から、▲0.7%に下方修正され、より悲観的に傾いた。また、8月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)は速報値ベースで47へと悪化し、拡大と縮小の境目を示す50を大きく下回った。製造業が低迷する中で、景気の下支え役となっていたサービス業の景況感が悪化に転じたことは、景気後退の可能性を高める。ビスコ・イタリア中銀総裁は、金融政策を判断するにあたって、非常に慎重にならなければならないと述べた。
物価上昇圧力は緩和傾向に?
チーフエコノミストであるレーン理事は、先週のインタビューで、モノとサービスのインフレに「緩和の兆候」が見られ、基調的には物価の上昇ペースは鈍化が続くとの見通しを示した。これは、注目しておくべきだろう。ECBが実施した利上げの効果が欧州経済に浸透しはじめたこと、すなわちインフレ抑制の効果を認めたのである。そして、レーン理事は、ECBが注目するコアインフレ率が「今秋、低下すると予想している」とも述べて、インフレ退治成功への希望に言及した。これまでECB政策理事会では、議論は百出しながらも、インフレ抑制でなんとか意見を取りまとめて、断続的に利上げを判断してきた。しかし、金利を立て続けに引き上げたために、インフレ抑制という正の効果と、経済成長の足かせになるという負の効果の両面がユーロ圏経済には出始めている。今回の判断は、難しいものになるだろう。
政策金利の最高到達点も低下か?
また、政策金利の最高到達点であるターミナルレートについても、議論が分かれてきている。金融市場は、ECBが今年12月までに1回の追加利上げを想定する程度まで、後退してきている。すなわち、残りの利下げカードは1枚と見ているということである。今年7月には、追加利上げは2~3回と見られていたので、利上げについての見方がかなり後退したことを表している。なお、市場は、2024年に入ると、利下げに転じ、都合3回利下げが実施されることを織り込んでいる。