AAAからAA+に一段階格下げを発表
8月1日、格付け会社フィッチ社は、米国の外貨建て長期債格付けを「AAA」から「AA+」に一段階、引き下げた。同社の発表文によれば、「今年6月に、2025年1月まで連邦議会で、債務の上限適用を停止すると超党派で合意したものの、財政状況や債務問題は、過去20年間にわたりガバナンスの水準が着実に悪化している」と引き下げの理由を説明した。同社は今年5月に、米国議会での民主・共和両党による政治的対立の激化や債務増大を理由に米国の格付けを引き下げ方向とするネガティブウオッチの対象に指定していた。同社によれば、政府債務は現在も高水準で増加しており、今後3年間で、さらに一段の財政悪化が懸念されるという。
イエレン財務長官は、フィッチ社の発表を受けて声明を発表し、フィッチ社による米国債の格下げは恣意的で、古いデータに基づいていると批判し、同意できないと異議を表明した。
民間格付け会社による米国債の格下げは、S&Pグローバル社が、2011年に連邦債務問題が深刻化し、連邦政府がデフォルトの危機に瀕した際に、政治的な妥協が成立しながらも、デフォルト回避から数日後に米国の格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げて以来となる。
格下げの対象となった米国債は売られ、利回りは長期債を中心に上昇した。経済指標は、いずれも活動の鈍化を示唆するものだったが、格下げの発表は、財政状況の悪化や国債発行の増加などに注目を向けさせた。10年米国債利回りは4.047%と前日比9bps上昇した。2年米国債利回りは同4bps上昇の4.912%で取引を終えた。30年債利回りは4.104%まで上昇し、今年の最高利回り水準を更新した。
為替市場では、ファーストリアクションでは、米ドルが売られて反応したが、時間をおかず、下落は解消された。金利差の方が材料視されやすい傾向は変わらないだろう。株式市場では、今週に発表予定の大手企業決算や米雇用統計が注目を集めており、米国債の格下げは大きな材料とはならなかった。米国経済のソフトランディングシナリオへの期待が高まる一方で、S&P500指数は2022年1月の終値ベースでの最高値に迫る水準であり、高値警戒感も出ている。S&P500とナスダック総合指数は、前日の上昇から反落して取引を終えた。
なお、8月1日の経済指標では、米供給管理協会(ISM)が発表した7月の製造業景気指数は46.4と、2020年5月以来の低水準だった前月の46.0から小幅改善し、製造業の景況感が底を打ちつつある可能性を示した。米労働省が発表した6月の雇用動態調査は、求人件数が3.4万件減の958.2万件と2021年4月以来2年ぶりの低水準となった。米FRBによる利上げにもかかわらず、雇用市場は引き締まっており、逼迫しているがいくぶん緩和傾向にある。最近の多くの経済データは米国経済のディスインフレが進行しているという見方を支持するもので、米FRBにとっては、良いニュースと受け止める参加者が多い。当面は、格下げのニュースより、ゴルディロックスシナリオに沿った、マーケットが続くと予想する。