政治的には対立姿勢崩さずも、民間企業トップは歓迎
ブリンケン国務長官が6月中旬に北京を訪問した後、イエレン財務長官も訪中するなど、米中の政治的な対話は、本格的に再開された。ブリンケン国務長官への中国政府の対応は、冷ややかなものだったが、政治的な対話の開始とともに、外国民間企業トップとの接触も積極化している。
5月以降、米アップル社のティム・クックCEOや独メルセデス・ベンツ社のオーラ・ケレニウスCEO、電気自動車メーカー米テスラ社のイーロン・マスクCEO米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOが相次いで中国を訪問した。大手企業の経営トップの訪問は、これらがパンデミック後、初めてだったが、中国政府は彼らを熱烈に歓迎し、中国政府が、民間企業と敵対するのではなく、協調姿勢を示して、関係修復を指向していることを明確にした。7月に入ってからもインテル社やマスターカード社、ウエスタンデジタル社やクアルコム社の幹部が、相次いで中国を訪れている。
ビル・ゲイツには、習主席が自ら面談
習近平国家主席も、外国人投資家への待遇を改善する意向を表明し、中国市場のさらなる対外開放を呼びかけた。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が北京を訪問した際には、習主席が面会し、同氏を「今年初めて北京で会った米国の友人」と呼んでみせた。ブリンケン米国務長官との会談でみせた習主席の厳しい口調と態度とは比べ物にならない厚遇ぶりだった。
中国経済は、ゼロコロナ政策転換後、急回復が期待されていたが、需要は思ったようには伸びず、景気回復の勢いは弱い。国内不動産市場は停滞しており、デフレリスクさえ指摘する声もある。加えて、欧米企業は、リスク分散の観点から、中国に置いていたサプライチェーンを中国外へ移転する計画を進めており、中国経済の見通しをより不透明にすることに繋がっている。中国国内からの投資が減少することは、中国の成長機会を減らす可能性もあり、西側諸国の企業との関係を再構築することが重要であるとの認識を持ち始めたのではないだろうか。
IT企業への対応にも変化
中国政府は、国内民間企業との関係改善も進めている。ここ数年、中國規制当局は、規制強化やデータ管理強化など、それまでにはなかったルールを作り出し、民間企業の締め付けと成長を阻害した。加えて、新型コロナウイルス対策では、徹底したゼロコロナ策を採用して、民間企業の経済活動は大きな打撃を受けた。例えば、急成長を遂げたアントファイナンシャル社やテンセント社には、様々な理由をつけて、締め付けを行った。しかし、両社には、総額2000億円という巨額の罰金は課したものの、これで、締め付け策は終了させるという意向を示した。中国政府は民間企業、特にハイテク企業に対する姿勢を変えていくだろう。
中国政府関係者はこのところ、民間企業に対する政府の支援を示すのに躍起に見える。李強首相は7月12日、アリババグループやJDドットコム社などの幹部らと協議した。この場では、インターネット企業を、時代の先駆者と呼んで持ち上げたという。また、国家発展改革委員会の見解として、こうした企業が中国の技術革新を支えていると評価していると称えて、さらなる支援を約束したという。中国政府の狙いとしては、特に厳しい状況が伝えられる若年層労働者の雇用拡大や、これによる国内消費の喚起、国際的な競争力の底上げを図りたいのであろう。
中国政府としては、非常に厳しい局面に立たされていることを認識して、動きを取り始めたようである。これまでの戦狼外交ではなく、是非協調姿勢を打ち出して、経済発展を図ってもらいたいものである。