金融危機で政策判断は複雑な状況
3月22日 連邦公開市場委員会FOMCが金融政策を決定する。2月1日のFOMC以降、金融市場は、一度はFRBの『タカ派』のスタンスを織り込んで、0.5%幅での利上げすら織り込んでいた。FRB高官らも、FRBは金融引き締めを継続し、政策金利を5.5%近辺まで引き上げると踏み込んだ発言をしていた。しかし、市場の状況は金融危機により一変した。昨年3月以降、連続して利上げを判断してきた状況とは、明らかに異なる。
3月に入り、リーマンショック以来初めて、米地銀3行が破綻した。経営状況の悪化の理由の一つは、金利が上昇したことによる債券投資の失敗(=評価損)だった。金融市場は、他にも同様に苦境に陥っている金融機関があるのではないかと、疑心暗鬼になり、中小地銀を中心に信用収縮が起こりやすい状況にある。これまでのように、FRBが引き締め姿勢を継続し、金利を上げれば、銀行システムの緊張に歯止めをかけるFRBや財務省、金融機関の努力は、水泡に帰すことが懸念される。
一方で、インフレを巡る状況は改善しているとはいえない。FRBは今回の利上げ局面で、既に合計4.50%の利上げを実施してきた。しかし、直近の雇用統計やとインフレ統計によれば、米国経済は高金利にも関わらず、雇用市場は引き締まり、インフレ率は高止まりしている。むしろ、賃金の上昇が、サービス業を中心とする物価上昇を支え、インフレ高止まりを定着させかねないことが懸念される。
FOMCの決定は?
今回のFOMCでは、この複雑化した状況で、何を優先するのかを判断することになる。インフレの高進を抑制するというFRB本来の役割から言えば、今回は利上げ実施を判断する可能性は十分にある。クレディ・スイスの経営破綻が懸念される中でも、欧州中央銀行(ECB)は、0.50%の利上げを予定通り敢行した。欧米金融当局は短時間で迅速に行動を取っており、金融システムの緊張を抑え込めるとの自信はあるだろう。FOMCで0.25%幅の利上げを実施することは十分に考えられる。ただ、ECBは金利の絶対水準が低かったため、利上げを回避してインフレがより高進してしまうことは回避したかったという事情もある。FRBはFF金利を既に4.50-4.75%水準まで引き上げている。様子見との判断は、ありえよう。
もうひとつ考慮すべき点は、信用収縮により、特にバランスシートの小さい銀行は、融資基準を引き締めるなど、融資姿勢を厳しくすることが見込まれることだろう。そうなると、政策金利を引き上げなくとも、景気は鈍化し、インフレ圧力が緩和する可能性はある。今回、利上げを見送って、『先送り』しても、金融危機の状況の見極めや地銀などの経営状態が経済を圧迫するかどうかを判断する時間を確保したとしても、非難が高まることはないだろう。というわけで、個人的には、ドミノ倒し的な金融危機への対応と不透明な経済への影響を考慮して、先送りはやはり有り得るのではないか。
21日の金融市場は0.25%幅の利上げの確率を80%程度織り込んだ。また、今年5月に金利のピークを迎え、最高到達点は4.90%程度となることを想定している。金利の最終到達点(ターミナルレート)は、市場が2月に織り込んだ5.50%程度までには高くならないことがコンセンサスになりつつある。率直に言って、FOMCが、過去1年間ほど確信を持って利上げを判断できるとはいえない中、利上げを停止し金融危機の影響を見極める時間を確保するという判断をするのか、0.25%幅で利上げを実施して、インフレの抑制が大事だとの姿勢を貫くのか注目される。