サプライズとなった米雇用統計(1月)

事前予想を大幅に上回る雇用者数

米国経済については、景気後退の入り口にあるというよりは、むしろ底堅く推移していることが各種統計で示されており、ソフトランディング(軟着陸)シナリオも十分に視野に入れておかなければならないと指摘してきた。2月3日に米国労働省が発表した米国雇用統計(1月)は、予想外の強さを示し、そのシナリオを裏付けるものとなった。

1月の非農業部門雇用者数は、前月比51.7万人増加した。前月も同26万人増と速報値22.3万増から上方修正された。また、失業率は3.4%に改善し、1969年5月以来の低水準を記録した。雇用は業種を超えて幅広く増加しており、娯楽・ホスピタリティーや専門職・ビジネスサービス、医療で特に増えた。今回の雇用統計そのものは、驚異的に強い内容だったと言わざるを得ない。

平均時給は前月比0.3%増、前年同月比では4.4%増加で、賃金の上昇圧力が根強いことを示した。昨年3月以降、FRBは4.25%幅で金利を引き上げており、企業の借り入れコストは急上昇した。それにもかかわらず、雇用市場は力強さを維持していることが示された。労働への需要は、供給を上回った状態が続いており、賃金の伸びが継続している構図が見える。これについては、先日の個人消費支出PCE価格指数(12月)でも同様に確認されている。食品とエネルギーを除くPCEコア価格指数は、前年同月比4.4%上昇だった。11月の同4.7%上昇から上昇率こそ緩和したが、サービス分野で価格上昇は続いている。

ISMサービス業景況指数も改善

3日には、米供給管理協会(ISM)から1月の非製造業総合景況指数も発表された。同指数は55.2と前月の49.2から6ポイントもの大幅上昇を示し、2020年半ば以来の改善を示した。ホリデーシーズン後に落ち込むと見られていた消費需要が、予想外に活発で、景気減速への懸念が薄れる内容だった。消費者信頼感は低い水準にあり、消費者の支出抑制がサービス業の景況感を低下させるとの見方が台頭していたが、これが一時的な懸念だった可能性が示唆される。また、新規輸出受注も大きく伸びたことも見逃してはならない。中国が新型コロナウイルス関連の制限措置を撤廃したことで、輸出受注を大きく押し上げた可能性が高い。中国政府が消費喚起策を採る可能性も取りざたされており、この点も考慮しておくべきだろう。

金融市場は、先週のFOMC後、利上げペースを一段と減速させるとの見方を強めた。リセッション懸念は根強く、早期の利上げの停止と金利低下シナリオを思い描いているが、このシナリオの実現性は一段と疑わしくなったと言わざるを得ない。パウエル議長が先日のFOMC後の記者会見で、述べていたことに市場は聞く耳を傾けなかったが、言わんとするところが伝わる統計が出たということだろう。雇用市場の引き締まりと賃金の上昇、そして物価上昇圧力の軟化が消費を支え、米国経済の下支えとして機能していると考えられる。増加のほとんどが季節要因によるものとの指摘も一部にあるが、これだけの高い数字が出たことから、雇用市場が引き締まっていることは否定できないだろう。米FRBは、この状況が続く可能性を見過ごすことはできず、インフレ圧力として警戒する姿勢を維持するだろう。

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