積極財政に打って出たトラス政権
9月23日、英国のトラス政権は、大規模な減税を含む1,600億ポンド(25.5兆円)の経済対策打ち出した。予想されたものよりも、大規模で積極的な財政政策パッケージであり、金融市場を驚かせた。個人所得税や印紙税を引き下げるほか、予定していた法人税率引き上げは撤回。インフレ対策として、光熱費の高騰に対する補助に600億ポンド(9.5兆円)を拠出する。合わせてロンドンの金融街シティーに対する規制緩和も実施し、金融センターとしての地位を高めるという。
減税策の内容は、所得税の最高税率を引き下げ、高額所得者に対する所得税最高税率45%を廃止し、基礎税率を20%から19%に引き下げる。法人税は、税率の引き上げを凍結する。不動産購入時の印紙税も削減するという。現在の規模は2026~2027年までで450億ポンドに達し、1972年以降で最大規模になるという。
トラス政権は、今回の財政措置で経済を活性化させ、英国経済が本格的なリセッションに陥る前に歯止めをかける腹積もりである。クワーテング財務相によると、政権は「英国経済の成長を優先させる」ことを約束したとし、「新時代に合わせた新たなアプローチ」として成長率の目標を2.5%に設定すると述べた。同日に、英国債務管理庁(DMO)が発表したところでは、2023会計年度(2022年4月-2023年3月)の国債発行額は、1,939億ポンドに増額される。今年4月時点では1,315億ポンドの計画だった。クワーテング財務相は、経済成長率を向こう5年間で年率1%引き上げることで減税分は十分に回収が可能との試算も示した。
評価は散々な財政政策パッケージ
金融市場では、高い水準にある英国政府の債務割合が、抑制不能に陥ることへの懸念が広がり、反応はネガティブだった。また、この政策が、進行中のインフレをさらに煽ることも、不安視される。イングランド銀行(BOE)は22日に、0.50%幅での利上げを実施したが、需要過剰によりインフレが進行する兆しが見られれば、より積極的な行動が必要になるとしていた。短期金融市場ではBOEが11月に予定する次回の金融政策理事会で、政策金利をさらに1.00%幅で引き上げることを織り込みに行っていた。23日の市場では、短期金利が上昇するのみならず、英国債は短期から長期まで幅広く売り込まれて、大幅に値を下げた。10年英国債利回りは、3.48%から3.82%へと大幅に上昇した。為替相場では英ポンドも対主要通貨で値幅を伴って急落、英ポンドは3週続けて売り圧力にさらされ、一時、37年ぶりの安値となる1ポンド=1.135ドルまで下落した。
週明けも、ポンドは下値を模索する展開である。ポンドは、一時、1ポンド=1.04ドル割れまで売り込まれた。すぐに1.06ドル台後半まで値を戻したものの、市場では、パリティ(1ポンド=1ドル)まで下げるとの厳しい予想も出ている。
英国の受難は続く
英国には、経済面で厳しい目が向けられている。加えて、トラス政権の追加経済対策は、経済成長にはあまり貢献せず、物価上昇を加速させるとして、厳しい評価が突きつけられた格好である。インフレにも着地点が見えず、先行きへの不透明感がぬぐえない。エリザベス女王を失い、ブレクジットで欧州からも離れた英国は、一体どうなるのだろうか?