動員令に揺れるロシア

ロシア政府が動員令を発令

9月21日、プーチン大統領はロシア国民に向けて演説し、30万人を動員すると表明した。これを受けて、ロシア各地では動員令に反対するデモが散発的に行われた。招集令状が多く交付された南部や東部などの地域でのデモが多いようである。

ショイグ国防相は、動員令にあたり、特殊な軍事技術や戦闘経験を持つ者だけを対象とすると説明していたが、実際には軍務経験のない国民に招集令状が届いたとの報告も多数ある。このため、プーチン大統領に近く忠実な人物からも、懸念を表明する声が聞かれる。ロシア連邦会議・上下両院議長が、招集の作業に全責任を負う地方首長に直接メッセージし、地方当局が招集の実態を把握するとともに、完全かつ絶対的に基準に準拠して部分動員が行われることを保証するように命じたことも伝えられた。ロシア国内の混乱ぶりが伝わってくる。

ロシア各地からは、週末に国外に脱出する動きも見られた。招集を避けるために国外へ逃れようとする人が増え、ロシアと国境を接する周辺国では対応に追われている。ロシアと国境を接するジョージアの検問所では召集令が出された21日以降、ロシアから出国しようとする車で大渋滞が起きた。トルコ行きの航空券は高騰し、売り切れる便が続出しているいう。一方で、ロシア当局が、徴兵に該当する年齢の男性を出国禁止にするとの懸念も強まっている。

核兵器使用の可能性をちらつかせる露大統領

国際的には、ロシアがウクライナ東・南部で実施したロシア編入の是非を問う住民投票を巡って、緊張が高まっている。国連のグテレス事務総長は、この住民投票が国連憲章と国際法に違反していると非難した。西側各国はこの住民投票の結果を認めないとしているが、ロシアへの帰属を肯定する投票結果を受けて、ロシアは同地域を自国領土だと主張するだろう。そして、ウクライナが当該地域の奪還を実現しようとすることを理由に、核兵器を限定的に使用する可能性も懸念される。動員令を発表する際に、プーチン大統領が核兵器の使用をほのめかせているのは、そういうシナリオがあるからだろう。

サリバン米大統領補佐官によれば、バイデン米政権は、ウクライナでの戦争でロシアが核兵器を使用した場合、ロシアに「壊滅的な結果」をもたらすと非公式にロシア政府に伝えたという。同氏は、核の威嚇は「極めて深刻に受け止めなければならない」と先週末のテレビ番組で述べた。

トラス英首相は、プーチン露大統領による恫喝に耳を貸さず、対ロシア制裁とウクライナへの支援を続けていかなければならないと語り、西側諸国の結束を呼びかけた。同首相は、プーチン大統領が、戦争で勝利できず、戦略的な失敗をしたからこそ、ウクライナ侵攻をエスカレートさせていると厳しく指摘した。

株価は急落

ロシア株式市場では、RTS指数が動員令の発表前から急落し、1,300ptから1,100pt割れと15%程度下げた。今後、戦闘は長期化すると見込まれ、戦争の影響がロシア経済の足を引っ張り始めることが懸念されれば、ダウンサイドリスクは高まるだろう。通貨ルーブルは、対米ドルで58.30ルーブルとほとんど動いていないが、原油や天然ガスの価格が一段と低下すれば収入源からルーブル売り圧力が顕在化しやすいのではないか?当面は、アップサイドをイメージしづらい。

ロシア上院は、29日にウクライナ占領地域編入について採決も

国営ロシア通信は、ロシア連邦会議(上院)はウクライナ占領地域のロシアへの編入について29日に採決する可能性があると報じた。また、プーチン大統領は30日に上下両院の合同会議で演説する予定と伝えた。同大統領は、毎年、国内外の政策課題についての方針を示すため両院の合同会議で演説を行うことが定例となっている。29日30日の動きには注意しておきたい。

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