金利引き上げとリセッション

先週は、主要中銀の利上げ続く

6月は荒れる相場と予想していたが、予想以上に波乱の展開になってきた。主要中銀が金融引き締めにシフトすることは、想定していたとおりだが、利上げ幅は拡大し、その影響を測りかねる金融市場は、先行き不透明感が先行する展開になっている。先週は、米FRBや英BOEに加えて、スイスSNBが予想に反して利上げを決めたことで、市場の懸念が増幅した。今週すぐに、市場が落ち着きを取り戻すとは予想し難いが、香港・中国市場が底入れを感じさせる動きをしていることで、当面の底をつけるようなイメージが緩やかにできてくると予想している。

米FRBは14~15日に開催されたFOMCで政策金利であるフェデラルファンドレートの誘導レンジを0.75%幅引き上げ、1.50%~1.75%とすることを決定した。今年3月・5月のFOMCに続く3会合連続での利上げ実施である。また、0.75%幅の利上げは、1994年以来27年ぶりの大幅利上げである。加えて今回は、0.5%幅ではなく、0.75%幅で利上げを実施した。理由は、インフレ率の高止まりである。5月FOMC以降もインフレ率は驚くほど高進しているとして、0.75%幅の利上げを正当化した。

そして、中立金利とされる3.00%水準への引き上げを急ぐ姿勢を明確にした。FRBが犯しうる最悪の過ちはインフレ低下に失敗することだとも明言し、FRBは迅速に利上げを継続してインフレ率を引き下げることにコミットするとも付け加えた。インフレファイターとしての役回りをしっかりと果たして利上げしなければ、とんでもないことになるという思いは伝わってくる。当面は、雇用市場の原則には目をつむりながら、金利引き上げを継続し、インフレ指標の動向をにらんでいくことになる。

金利のオーバーシュートも?

金融市場では、短期金利は2023年に3.00%水準をオーバーシュートして、3.50%程度になるとの観測も出はじめている。ただ、どこまで金利を引き上げなければならないかを言い当てることは難しい。今年12月から来年初めに、インフレ率が低下してくるのか、高いままであるのか次第だろう。

なお、0.75%幅の利上げを実施したことについて、FRB首脳の間でも議論が沸き起こっている。パウエル議長は会見で「0.75%という幅は異例なこと」とコメントした他、ジョージ・カンザスシティー連銀総裁は「バランスシート縮小と組み合わされば、(0.75%幅の利上げは)見通しに不確実性を生む」と反対票を投じた理由を述べ、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁も「7月会合の後は、インフレ率が2%に向けてかなり低下するまで、50bpの利上げをただ続けることが一つの賢明な戦略かもしれない」と指摘している。インフレ率次第ではあるものの、市場や家計、小規模企業には、異例の幅での利上げは、不確実性を高め副作用もあるとの印象を残した。

リセッションに陥るかどうかの議論は続く

米国経済がリセッションに陥るかどうかも不透明である。ただ、心配な材料は増えている。消費者信頼感指数は急低下しているし、景況感指数も水準を切り下げ始めている。米FRBが積極的な利上げを続ければ、金融市場には『ハリケーン』に直撃されたような、とんでもない混乱が生じ、米国経済はリセッションに陥るとの心配の声は増えている。

一方で、イエレン財務長官は、週末のTVインタビューで、リセッションは「全く不可避というわけではない」と言明した。パンデミック以降、国民の貯蓄が積み上がっているほか、雇用市場は「極めて力強い」状況が続いていることを要因として挙げた。また消費者がインフレを乗り切る上で助けとなり得るのであれば、ガソリン税の一定期間免除や、タイ中国で実施される関税を停止することも検討する価値はあると述べた。

いずれにしても、バイデン政権は政治問題化しつつあるインフレ抑制という課題を、中間選挙を乗り切るために正面から取り組まなくてはならない。そして、FRBは、金融を引き締めてインフレを抑制しながら、景気失速を回避するという離れ業をやってのけなければならない。かなり、難儀なミッションである。

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