間違いを認めたイエレン米財務長官
6月7日、イエレン米財務長官は米国議会上院の財政委員会の公聴会に出席した。1.9兆ドルの追加経済対策「American Rescue Plan (米国救済計画=APR)」に関する質疑が予定されていたが、委員からは、物価の上昇についての質問が相次ぎ、イエレン財務長官は質問攻めに遭ったような公聴会となった。
ARPについては、イエレン長官はARPに盛り込まれている政策は、インフレをもたらしているわけではなく、国民のコスト削減に役立ち、パンデミックに起因する供給網の混乱に伴う逆風やロシアのウクライナ侵攻に起因する石油・食料市場への供給混乱といった経済上の課題から回復することを支援していると述べた。しかし、議会共和党はARPが過大な景気刺激策であり、40年ぶりのインフレ高進の一因になったとして、バイデン政権を批判している。イエレン長官は、先進各国の財政政策はそれぞれで大きく異なっているが、ほぼすべての国で、インフレ率の高進は起こっており、ARPがインフレ率上昇の原因とはいえないと、民主党とバイデン大統領主導の政策を擁護した。
インフレについての質問はより厳しいものだった。コアCPIの伸び率は年率で6%を超え、約40年ぶりに高い水準にとどまっている。そして、バイデン政権が提出した2023年度の予算案が前提としているインフレ予想値を大幅に上回っている。イエレン長官は、米国内のインフレは高止まりするとの認識を示し、バイデン政権としては、次年度の予算案でインフレ見通しを引き上げる可能性を示唆した。そして、現在のインフレの状況は、「許容できない」水準にあり、対処を進めることを明言した。
そして、公聴会の中で最も注目されたイエレン財務長官のコメントは、
“Both of us probably could have used a better term than ‘transitory’.”
だろう。
Both of usとは、イエレン長官とパウエルFRB議長を指し、昨年2021年に、ふたりともインフレ率の上昇が長期化せず、すぐに沈静化すると考えていたのは間違いだった認め、「一過性」より良い表現を使えたはずだと述べた。
インフレ見通しを見誤ったことを認めたイエレン長官のこの発言は、共和党上院議員からは、強い非難を浴びた。APRのような課題なパッケージを出しておきながら、インフレ率の上昇を正しく認識できなかったことは、けしからんということである。8日には、下院の歳入委員会で公聴会が開かれる。イエレン長官は、再びこの問題で厳しい追及を受けることになるだろう。
来週16-17日には米FOMCが開催される予定である。イエレン長官と同様に、パウエル議長も、「一過性」だとの判断が過ちであり、インフレ率の抑制を第一に考え行動するだろう。「インフレは高止まりすると予想しているが、低下することを強く望んでいる」と語るイエレン長官の言葉の裏には、インフレを抑制しなければならないという強い使命感を感じる。FRBは、雇用市場の力強さを損なわずにインフレ圧力を抑制するという難しい命題のために、6月FOMCでは、もう一歩金融政策を進めることになるだろう。0.50%の利上げは間違いない。