ECBがインフレ抑制姿勢を鮮明に。7月と9月に利上げも。

ECBは金融緩和政策解除の道筋を示す

欧州中央銀行(ECB)は6月9日に理事会を開催し、債券購入プログラムを(APP)7月1日に終了させること、その後、7月理事会のタイミングで0.25%の利上げを実施することを決定した。また、それに続く9月理事会のタイミングでも、政策金利を0.5%引き上げる可能性を示唆した。7月に行うとした政策金利引き上げは、約2011年以来、約10年ぶりの実施となる。

低成長にあえぐ欧州経済の低成長を背景に、ECBは過去8年ほど金融政策を超緩和的に維持して、政策金利をマイナスに引き下げていた。また2020年からは新型コロナウイルスの感染が拡大し、経済的な打撃から需要を喚起するため、市場から債券を購入するプログラムを導入して資金供給を強化してきた。しかし、インフレ率が急上昇する中で、ECBは金融政策を「異常な状態」から「中立政策」に戻す必要があり、早期の行動が必要であると判断したのである。今回は、金融政策を「中立」にする道筋も示した。今回の理事会の決定は、緩和政策の解除(終焉)の道筋を示したという点では、通常とは異なる内容である。

なお、ECBは経済予測の中で、今年のインフレ率について年率7.1%となる可能性を示唆した。これは極めて高い見通しである。ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、インフレについて、「主として上方向のリスク」があるとの認識を示した。生産能力の長期的な悪化と賃金上昇、エネルギーおよび食料品価格の高止まりとそれらによるインフレ期待の上昇などを要因として挙げた。

また、ラガルド総裁はインフレ率をECBの中期目標である2%近辺で安定させるため、「あらゆる政策手段を調整する用意がある」と表明した。理事会の声明でも「インフレ見通しが高止まるまたは悪化する場合、9月理事会でより大幅な利上げが適切になるだろう」とした。7月の0.25%の利上げに加えて、0.50%の利上げ実施をほのめかしたと受け止められる。なお、2024年にはインフレ率が平均2.1%とECBが目標とする水準近くに落ち着くとの見通しを示した。

米国消費者物価指数(5月)発表を控え、欧州・米国とも債券利回りは急上昇

欧州債券相場では、債券利回りが急上昇した。特に、南ヨーロッパの国債が売り込まれ、10年イタリア国債は、利回りが前日比0.25%上昇し3.715%をつけた。10年ギリシャ国債利回りは4.15%、10年スペイン国債利回りは2.628%まで上昇した。最も信頼度の高い10年ドイツ国債利回りは1.47%で前日比0.10%上昇した。ドイツ・イタリア国債間の利回り格差は2.27%に拡大した。

米国債利回りも上昇し、2年米国債利回りは一時2.842%まで上昇した。10年米国債利回りは3.073%まで上昇し、いずれも先月5月前半以来の高い水準をつけた。

米国株式相場は、金利の上昇とインフレ見通しで悲観的な見方が広がり、大幅に続落した。消費者物価指数CPI (5月) は10日に発表されるが、高い水準にとどまっていると予想される。S&P500指数は、前日比97.95下げて4,017.82で引けた。ダウ平均も前日比638ドル安の 32,272.79、ナスダック総合指数は332.05下げて 11,754.23で取引を終えた。年初来ではS&P500指数は約16%下げ、ナスダック総合は約25%下げた水準である。

今後の注目点は?

米国もそうだが、これで、欧州も同じ悩みを抱える構図となった。今後は、

  • インフレ抑制のために金利はどこまで上がるのか?
  • また、どのくらい早期に引き上げていくのか?
  • 金融政策を引き締めて、金利上昇の環境に経済が耐えられるのか?

という点が争点になっていくことになる。ECBもFRBも難しい舵取りを求められる。

ただ、ECBが示したインフレ率見通しは、米国よりも高い。これだけ高い水準のインフレに直面しているのであれば、引き締めペースはもっと早くなければならないのではないか?遅きに失する事にならなければよいのだが。

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